軽薄でアンニュイ漂うアウトローを渡哲也が好演する名映画

映画評論家・秋本鉄次が往年の名作傑作を探る「昔の映画が出ています」

『紅の流れ星』

日活/1967年
監督/舛田利雄
出演/渡哲也、浅丘ルリ子、宍戸錠ほか

根津甚八、松方弘樹と著名映画人の訃報が続く中、先月には鈴木清順監督が93歳で亡くなった。独特の美学で知られるその代表作の一本は渡哲也主演『東京流れ者』(1966年)だが、渡哲也が自ら代表作のひとつに挙げていたのが、翌1967年に作られた舛田利雄監督(現在90歳近い高齢だがご健在だ)の『紅の流れ星』である。これは私の日本映画生涯のベストワンでもあるので、往年の名作傑作を探るこの企画のトップバッターに独断と偏見で推したい。

東京で殺しをやって、神戸に身を隠し、しばらく経ったアウトローの五郎が主人公。イイ女の情婦(松尾嘉代)もいて、慕ってくれる子分(杉良太郎)もいるし、地元の刑事(藤竜也)と軽口をたたき合うほど、住み心地は悪くなさそうな潜伏生活だが、どうもなじめない。「東京に帰りてえなあ」が口癖だ。港の堤防にデッキチェアに体を埋め「兄貴、何考えてンすか?」と聞かれると「何を考えようかと、考えているんだよ」と持て余す。“俺の居場所はここじゃない”とばかりに時代と現状に対するアンチテーゼが濃厚だった。

 

硬派でシリアスなイメージの渡哲也が演じる軽薄な役は必見

もともと、ジャン・ギャバン主演のフランス映画の名作『望郷』(1937年)を、日活が石原裕次郎主演で翻案した『赤い波止場』(1958年)のリメークなのだが、出来上がった作品のニュアンスはフランス・ヌーベルバーグの代表作でジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1958年)に近かった。一番お気に入りのシーンは東京から来たスゴい美人(浅丘ルリ子)を軽薄に口説きまくるくだり。

「俺と寝ようぜ」、「下品ね」、「じゃ、あんたの好きな上品な言葉で言えば、好きだ、愛してるってこった」…彼女にビンタ食らってもひるまない。硬派でシリアスのイメージの強い渡哲也がこんな軽妙な台詞を吐く役を演じていたなんて、と驚くこと請け合いだ。

この“陽気なペシミスト”とでも言うべきキャラクターが絶妙で、私の座右の一本となった。かつて舛田監督にインタビューしたときに「あの感じで、哲ちゃんと何本かやりたかったんだけど、この映画、当たんなくてね」と口惜しそうに語っていたことを思い出す。

渡哲也も現在75歳。最近はお酒のCMでしか見掛けないが、約半世紀前の若く、アンニュイ漂う、ファンキーな彼に見惚れてほしい。

 

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