金正男氏の暗殺はロイヤルファミリー内で生じた極めて内向きの問題であり、北の住民はじめ幹部たちですら、詳細を知ってはいけないトップシークレットの“事件”だ。
金正日の長男の正男氏は、存在自体が現北朝鮮トップの金正恩の“伝統性”や“権威”を傷つける。しかし、正男氏もまた“従兄殺し”をやってのけているので、因果応報なのだ。
1997年に、韓国では正男氏の従兄の李韓永(イ・ハニョン)暗殺事件が起きている。当時の正男氏は、金正日の最有力後継者という位置付けにあり、事実上の軍の護衛司令官だった。
「1982年に韓国に亡命した李韓永は、正男氏とともにモスクワなどへ海外留学をしています。李は金正日が略奪した人妻、成恵琳(ソン・ヘリム)の実姉である成恵琅(ソン・ヘラン)の息子で、正男とは従兄、正日は伯父に当たります。その李は、1996年に『大同江ロイヤルファミリー、ソウル潜行14年』という金ファミリーに関する暴露本を出版しており、その本のなかで正男の母の成恵琳が人妻であること、正日の略奪婚によって正男が生まれたこと、金日成はしばらくその存在すら知らなかったというスキャンダルを暴露したのです。それを知った正男氏が暗殺を命じたとの証言もあるのです」(北朝鮮ウオッチャー)
正男氏と正恩は、共に金ファミリー内の従兄殺しと兄殺しを犯したという点で、同じ穴のムジナといえるのだ。
北朝鮮の緊急時に発動される「1番事件」とは
「金日成時代は妻も後妻も公開されていましたが、2代目の正日からは一切秘密となっています。そのため、2代目以降はそれら情報を知り得たという理由だけで、政治犯収容所送りになるほどの“機密事項”に位置付けられました。現在でも正恩は三男で、在日帰国者である高英姫(コ・ヨンヒ)の息子と知っただけで、秘密警察に逮捕されます。高一家を在日と知っている北朝鮮内の帰国者は、生きた心地がしないでしょう」(同・ウオッチャー)
北朝鮮は、首領への存在神格化、権威絶対化、命令実行無条件性、思想信条化、忠誠心信念化によって体制が維持されている。それに反する事案は『1番事件』と呼ばれ、これが発動されれば、党や工作機関は非常事態態勢を瞬時かつ自動的に採るようになっている。
タブーを犯した正男氏には、この1番事件が発動されたのである。
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