豚の大群が基地の街・横須賀を大暴走する今村昌平監督の会心作

映画評論家・秋本鉄次が往年の名作傑作を探る『昔の映画が出ています』

作品目『豚と軍艦』

日活/1960年
監督/今村昌平
出演/長門裕之、芳村実子、丹波哲郎ほか

“アメリカに追従、寄生”する日本、日本政府という構図は、何もいまに始まったことじゃない。アメリカに寄生すると滅びるよ、みたいなテーマで鋭いのが、もう50年以上も前のこの異色作だ。

日本映画で、すでに鬼籍に入った“昭和の”豪快な名物監督を3人選べ、という設問があれば、『仁義なき戦い』の深作欣二、『極道の妻たち』の五社英雄、そしてこの“鬼のイマヘイ”こと今村昌平と答える。この3人、主演女優をよく脱がしたことでも知られ、彼らの組の撮影に入ったら女優は“無傷では帰れない”という伝説が生まれたほど。いまの監督さんはみんな優しく、オトモダチ感覚の人がほとんどといわれるが、隔世の感がある。

そんなイマヘイが、まだ35歳、血気盛んも盛ん、血ィ吐いても、持ち前のバイタリティーを発揮していたころの監督デビュー5作目にして本領発揮作だと、個人的には思う。

 

時代背景と今村イズムが見事にマッチした作品

基地の街・横須賀を舞台に、アメリカ軍に寄生し、その残飯で豚を飼育して肥え太るヤクザ一家が、結局はその豚の大群に踏みつぶされて自滅する姿をシニカルに描き、その後の“今村イズム”を確立させた、とも言える逸品で、いま見てもゾクゾクするほど面白い。今村イズムとは、デビュー作『盗まれた欲情』から『復讐するは我にあり』を経て、長編の遺作となった『赤い橋の下のぬるい水』まで一貫して描かれる人間の業、その愚かさといとおしさ。そこから生まれるヘビーな喜劇性だろう。

公開当時は、1960年安保体制の真っただ中、事実上のアメリカ支配下において堕落し、退廃を続け、方向性を完全に見失った日本及び日本人の姿を“基地ヤクザ”に投影して嗤う。あからさまな社会的メッセージを排し、あくまで“米軍”、“豚”、“ヤクザ”の三題噺のようにして、引きつる笑いを誘発する。『撮影中は、豚を大量に使って大混乱。予算問題ですったもんだして何度もストップし、ようやくできただけに感無量だった』と今村監督は後年語っている。

主演・長門裕之の軽いチンピラぶり、実は小心者で自分は“がん”だと思い込み荒れまくるヤクザの丹波哲郎のぶざまさ(役名が“鉄次”でボクと同名だったので、よけい鮮烈だった)も特筆ものだったが、それ以上に素晴らしいのが、この退廃の中で野太く生き残る長門の恋人役のヒロイン、吉村実子。オーディションの末、今村監督が選んだ逸材で、ベッドシーンもレイプシーンあったが、それも臆せずに挑んでいた。実の姉はタレントの芳村真理。今村映画の真骨頂は、女たちが圧倒的に強くてしぶといこと。そこが素敵だ。

 

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