欲望、嫉妬、贖罪…殺人事件と不倫が交錯する「昼顔」対抗作映画?

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『クロス』

太秦配給/7月1日より渋谷ユーロスペースほかで公開
監督/奥山和由・釘宮慎治
出演/紺野千春、山中聡、Sharo、斎藤工ほか

6月上旬、福岡県小郡市で起こった母子3人殺害事件で、夫の30代の警察官が逮捕された。しかし、まだ真相への謎は深そうだ。

この事件で真っ先に連想したのが、既に試写で見ていたこの新作映画だった。内容や展開は違うとはいえ、男女の齟齬、欲望、嫉妬、贖罪、そして殺人事件と不倫が交錯するという点では似ていると感じたのだ。

かつて“不倫殺人”を犯して、いまはひっそり暮らす真理子(紺野千春)は、犬の里親募集が縁で孝史(山中聡)と知り合うが、孝史の妻、知佳(Sharo)にも若いころの“集団リンチ殺人”の過去を隠して人妻となっていた秘密があった…。この設定だけで心がザワつくではないか。

原作は、映画化も多く由緒ある城戸賞を受賞した宍戸英紀、監督は『その男、凶暴につき』(1989年)などの映画プロデューサー奥山和由と日本アカデミー賞受賞の撮影監督の釘宮慎二との共同。ひと筋縄ではいかない脚本と演出の妙味。題名の『クロス』には(背負う)十字架と、交錯する、のふたつの意味があるのだろう。

 

無名だが光る紺野千春とSharoのインパクトの強さ

やがて、週刊誌記者(斎藤工)に過去が暴かれた知佳は、ネット掲示板により“不倫殺人”の犯人は真理子ではないか、と疑い始め、真理子の過去を暴こうと異常な行動をエスカレートさせる。このあたりからトラウマと贖罪意識が交錯する女性たちの対峙が本格化する。こうなると間に入ってオロオロするのは、いつも男。山中が無力な男を好演するが、覚悟を決めた女性たちに挟まれては、なす術もない。紺野千春は、その美貌を隠すように化粧っ気がなく、山中との絡みで見せるスレンダーなヌードが切ない。

一方、Sharoは戦慄を覚える横顔で鬼気迫る。特に夫の耳元で「貴方のきょうのこと(不倫)とわたしの過去のこと(殺人)でおあいこね。嫌なら貴方殺して、娘と死ぬわ。人殺すの初めてじゃないし」と囁くセリフには背筋がゾッとなった。久々に“オンナは怖い”と思う瞬間を味わった。これは妄執と宿命にのたうつ女たちの一種のハードボイルド・ヒロイン映画ではないか。ふたりとも一般知名度は低いが、インパクトは強い。

どっちにも斎藤工が出ているせいか、6月に公開された上戸彩主演の“不倫映画”『昼顔』を連想してしまうし、この映画のラストは『昼顔』の冒頭とリンクするようにも見える。全く別物の映画の偶然の産物だろうし、強引に結び付けたがるのは評論家の悪い癖だが、ボクにはこの映画が『昼顔』の対抗作に思えてならない。もちろん、『クロス』の方が“大人の映画”である。

 

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