ペンとポストカードだけを武器にナチスに抵抗した夫婦の実録映画

 

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『ヒトラーへの285枚の葉書』

アルバトロスフィルム配給/7月8日よりヒューマントラスト有楽町ほかで公開
監督/ヴァンサン・ペレーズ
出演/エマ・トンプソン、ブレンダン・グリーソンほか

論点が深まらないまま、あれよあれよと成立してしまった『共謀罪』。戦前の日本やナチスドイツのような時代に逆戻りしなければいいが、と思いながらこの映画を見ると、暗澹たる気持ちになる。

1940年、ナチスドイツがフランスに勝利し、次はイギリスだ、ヨーロッパ征服だ、と市民が沸き立つころ、質素な暮らしをする労働者階級の夫婦のもとに息子戦死の報が届く。それまで別に反ナチスという立ち位置ではなかったこの夫婦、妻なんかナチ党の国家社会主義女性同盟に属していたのだから、どちらかと言えばナチス派のはずだった。しかし、息子を奪われて“息子がお国にご奉仕できて本望です”とおとなしくしないのがスゴい。

息子がいない人生なんて無意味だ、もう見つかって殺されてもいい、わたしたちは怒った、と強い覚悟を示し、ヒトラー批判、政権批判を込めたポストカード、いわばアジビラを市内各所に置き続けるのだ。まさに驚愕の実話とはこのこと、285枚ものアジビラを配り、秘密警察の目をかいくぐり、その活動は2年余も続く。抵抗運動組織とは一切関係なく、一組の夫婦が全く単独で孤高の闘いを貫く姿に胸打たれた。

 

夫婦の「孤高」の活動はいまだからこそ見る価値がある

ヒロインはエマ・トンプソン。本来は金髪の実力派オスカー女優なのだが、いかにも地味で、ボクは“ジミパツ(地味なパツキン)”として、メリル・ストリープやグィネス・パルトロウなどと同様、これまであまり食指が動かなかった。今回はかなり茶系統の髪の毛だが、その“地味感”が逆に武器となって、この信念を貫く夫唱婦随(婦唱夫随かも)を見事に演じていて、お見それしました、と言いたい。

夫役のブレンダン・グリーソンも『ハリー・ポッター』シリーズなどのベテラン俳優だが、寡黙ななかにも決意がにじむ面構えで圧倒する。この中高年夫婦が、形ばかりの理不尽な法廷で顔を合わせ、以心伝心の結束をさらに強固にするあたりは心奮えるほど。

彼らがいつ捕まるのか、逃げきれるのか、いや逃げ切れ、とハラハラのサスペンス演出も冴え渡る(監督は俳優出身のヴァンサン・ペレーズ)。また彼らの逮捕命令を受ける取締官の悲劇も平行して描かれて、なるほどと思った。

原題を直訳すると“ベルリンにひとり”なのだが、この場合、ひとり=ALONEは、“孤高”という意味も含めてではないか。この名もなき夫婦の活動は、戦時中には、結果的に大した効果は挙げられない“無駄な抵抗”だったのかもしれないが、戦後はるかないま、改めて知る価値、見る価値がある、と思う。

 

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