「ええで~」と選手を褒めて伸ばした名伯楽・上田利治氏死去

T.Shima / PIXTA(ピクスタ)

吉見健明のダッグアウト取材メモ

「なぜ阪急の優勝ではなく、阪神の惨敗を一面にするの? 新聞作りが間違いだ。売れればいいという新聞作りは間違いやないのか」

7月2日、プロ野球の阪急ブレーブス、オリックス・ブレーブス、日本ハムファイターズを率いた名監督・上田利治氏が80歳で亡くなった。

訃報に接して、最初に思い出したのが冒頭の“上さん”の言葉である。ものすごい迫力で私は叱られたのだ。

「ええで~ええで~」

福本豊、簑田浩二、山田久志、山口高志…選手を誉めまくった上さんの阪急黄金時代に、私は大阪スポニチで阪急を担当していた。そのころブレーブスコーナーがあったテレビ番組に出演した私は、調子に乗って「勝つだけの野球をしていても観客は集まらない」などと上田阪急を批判してしまったことがあった。

そんな因縁もあったので、上さんは本気で私に激怒したのだ。

上さんはこうも言った。

「吉見くん、選手を『ええで~』と誉めるのが、なぜなのかわからないのか。 本当にいい選手を、スポーツ紙が書かない。それがおかしいと思わないんですか? 少しでも紙面に載せてあげてください」

そんな上さんのもとだから、いま思えばアニマル・レスリーのような話題になる選手が何人も生まれた。それでも、阪急ネタは三面トップにはいくが、一面までにはいかなかったのである。

阪急担当記者として私に求められていたスクープは、上田監督の勇退問題だった。毎朝ランニングをしていると聞いて、西宮の上田監督宅を訪ね続けた。そして連日しつこく聞いたのは、「今年限りで勇退すると聞いています。次の監督は山田(久志)ですか? 福本(豊)ですか?」という質問。

まだシーズンが始まったばかりなのに、毎日こんな質問をする記者がいたのだから、温厚な上さんもさすがに怒り、スポニチのデスクに「吉見の朝の取材を止めさせてくれ!」と抗議をした。

私は、担当記者が誰もいない時間を見計らって、会社に内緒で質問していたのだが、それが社内中の知るところになってしまったのである。若かった私も、「そんなことを上司に言うのはないんじゃないんですか!」などと怒りに任せて反論してしまった。上さんとは喧嘩ばかりしていたのだ。

 

いまも活躍する数多くの指導者を育てた上さん

1978年、かの有名な日本シリーズの大杉勝男のホームランをめぐる1時間19分の長時間の抗議があった。上さんはそのシリーズ後に球団を去るのだが、その時、ベンチ裏のロッカーでは、加藤秀司が、上田監督に大造反して某選手と取っ組み合いの喧嘩をしていた。福本豊、山田久志に比べて、大切にされていない加藤秀司が、上さんに猛反発したのである。長過ぎる抗議の間、担当記者はみんなその場面を見ている。

ところが、担当記者は一行も書かなかった。上さんが、内紛トラブルが表面化するのを嫌っており、担当記者がみな、上さんの意向を“忖度”したのだ。

その後、スポニチの評論家時代には、こんな秘密を私に教えてくれた。上さんが西本幸雄監督時代に阪急コーチをしているころの話だ。

当時の近鉄のエース、鈴木啓示がフォークを投げるときの癖(セットする時にへそより上で止めたときはフォーク)を見抜いて、阪急の主力打者だった長池徳治に伝授したのが“上田コーチ”だった。

もともと、南海で野村克也監督がやっていたスパイ野球を阪急に導入したのが、上さんである。いつもケンカばかりしていた上さんだが、パリーグの野球の裏側を教えてくれたりもした。勝負に徹する厳しい監督の一面もあるが、実はパリーグの野球を誰よりも愛していたのが上さんだったと、改めて思う。

「私の出会った中では最高の監督でした」

上さんの訃報に接して最大級の賛辞を送ったのは佐藤義則、現ソフトバンクコーチだ。上田阪急を支え、阪急黄金時代の経験も生かして、ダルビッシュ有や田中将大を育てた名伯楽のこのセリフが、上さんの偉大さを見事に伝えているのではないだろうか。

6日、神奈川県横浜市の公益社会館たまプラーザで行われた葬儀に私は出席した。優秀な選手を熱血指導で鍛えたばかりか、指導者としても、山田久志・元中日監督、福良純一・オリックス監督、福本豊・元オリックスコーチ、加藤秀司・中日コーチ、佐藤義則・ソフトバンクコーチらを育てたのである。

私は告別式で、「上さん、申し訳ありませんでした」と合掌した。

ご冥福を祈ります。

(スポーツジャーナリスト・吉見健明)

 

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