浅野忠信“得体の知れない男”感満載の異色ホームドラマ

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『幼な子われらに生まれ』

ファントムフィルム配給/8月26日よりテアトル新宿ほかで全国公開

監督/三島有紀子

出演/浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶほか

原作は、映画化された『疾走』、ドラマ化された『流星ワゴン』など著作多数の重松清の初期長編。バツイチ子持ちの商社マンが再婚し、妻の連れ子にも気を配るが、妻の妊娠をきっかけに連れ子が反抗し、本当の父親に会いたいと言い出す。倉庫への出向を命じられた時期と重なる中、彼は本当に“父親”になれるのだろうか、という重松の自伝的要素が濃いお話だ。

一見、“パパはつらいよ”的なありがちホームドラマにも映るが、よく見ると“血のつながらない家族”と“血のつながった他人”だらけの話で、画面から醸し出される不協和音を味わう作品でもある。それに寄与するのが、俳優たちの存在。浅野忠信の父親ぶりは、彼の持つ“得体の知れない男”ムード(14年の『私の男』も16年の『淵に立つ』もそうだった)が漂っていて、左遷された部署で黙々と作業するあたりも不気味で、ストレスのかかる家族とのやりとりでも、いつこの男が“決壊”するのか、と思わせる異様さがある。浅野忠信という役者の底知れない部分を垣間見た気がする。

 

女性監督ならではの目線

妻の元旦那で自堕落な生活を送る宮藤官九郎とギャンブル場やデパートの屋上で交わすしみじみとした会話がボクには染みた。これはオジサンならではの心情だ。対比となる依存心の高い妻を演じる田中麗奈、向上心の高い元妻に扮する寺島しのぶの女性像も効果的。このあたりは女性監督三島有紀子の目線が相当入っているのだろう。三島監督は09年のデビュー作『刺青~匂ひ月のごとく~』が良かったが、その後のヒューマンな数作は物足りなかった。今回は、いつも相当ヒネクれている荒井晴彦脚本を得て、本領発揮と見たが、いかがか。

通常はもっと、あったかい話に仕上がりそうな内容なのに、この映画は実に冷めていて、一種無機的なのが魅力的。その象徴が、主人公がニュータウンに帰宅する際に日常使う“斜行エレベーター”。何か異空間に誘われる感じで抜群の“小道具”となった。

新生児を迎えるラストも一見ハッピー・エンドに見えて、意外とアンハッピー・エンドなんじゃないか、とボクなんか思ってしまう。家族なんてなりゆき任せに転がっていくしかない、しょせん異質なもの同士のつながりなんだから、という諦念にも似た感情が込み上げてくる。テレビのホームドラマでは決して投げかけないような裏テーマがこの新作には横たわっている。家族を中心とする人間関係において、自分が不器用だ、と少しでも思う人なら一見に値する。

 

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