普通の人間関係が築けぬ男女の彷徨を描く映画「月と雷」

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『月と雷』

配給/スールキートス 10月7日よりテアトル新宿ほかで全国公開
監督/安藤尋
出演/初音映莉子、高良健吾、草刈民代、村上淳、木場勝己ほか

今年はビターな若者映画が目立つ。歯の浮くような“キラキラ映画”の台頭への反動なのか。世の中、そんなチャラチャラしたもんじゃねえよ、という主張。例えば、『映画 夜空は最高密度の青色だ』、『彼女の人生は間違いじゃない』、そして、この映画だ。

『八日目の蝉』(2011年)、『紙の月』(2014年)など映画化作も多いベストセラー作家、角田光代の原作も実に面白いのだが、珍しいことに、原作者をして「書いていて大嫌いだった泰子も智も直子も(登場人物)、映画で見たらみんな好きになった」と大絶賛している。普通、原作者は映画化に関し、(原作料を十分もらっていることだろうし)“娘を嫁にやったようなもの”てな言い方でごまかすのに。要因は、役者たちの肉体、演技、そして演出が素晴らしいからにほかならない。

「雨が来そうなときに雷になるじゃない。あんな感じ」…長年、行きずりの男性宅を転々とし、酒と煙草にふける日々。“雨の予感”がすると、修羅場を避けるかのように去ってゆくことで生きて来た直子(草刈民代)。そんな生来のデラシネ(根無し草)気質の母の血ゆえか、普通の生活が築けないモテ男の智(高良健吾)。幼いころ、この母子と同居し、現在は地道に独身生活の泰子(初音映莉子)。

この3人の男女が再会し、“家族”という幻想が問い直されてゆく。

 

強烈な印象を残す高良、草刈、初音の演技

高良は前出の『彼女の人生は間違いじゃない』で、デリヘルの女の子を送迎する運転手役を芯の通った人物として好助演していたが、今回は堂々主役で、関係を持った女性たちに「あんたは(結婚に)向かない」と看破されてしまう男の心身を見事に肉体化している。

このニュアンスを出せる若い男優はそうはいない。調味料のCMの『創味シャンタン』だけの男じゃないのである。今年の主演男優賞はキミだ、と“日本一早い”エールを送りたい。

一方、母役の草刈も、『Shall we ダンス?』(1996年)の“憧れの女性”のイメージを覆し、本来のナチュラルな髪の毛をわざわざブリーチしてパサパサにして、フーテン女になりきっている。無防備であからさまだけど、オンナの諦観を抱えて生きている。まさに“ザ・助演女優賞”の熱演といえよう。そういえば、若いころ出入りしていたスナックに、似たような女性がいたなあ…。この最強(?)の“デラシネ母&息子”に対抗する泰子役の初音映莉子は全裸も辞さず、自ら積極的に高良との“からみ”にも挑んだ。彼女もまた強烈な印象を残す。

そんな役者たちの新境地と化学反応を生んだ『海を感じる時』(2014年)の安藤尋監督の殊勲ではないか。ボクはこの映画が抱きしめたくなるほど、好きだ。

 

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