藤竜也が老ハンターの執念を生臭く演じる映画「東の狼」

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『東の狼』

配給/HIGH BROW CINEMA 新宿ピカデリーほかにて2月3日より公開
監督/カルロス・M・キンテラ
出演/藤竜也、大西信満、小堀正博ほか

私事で恐縮だが、小学生のころディズニー映画『狼王ロボ』(1962年)を見て以来“狼映画”には目がない。以来、最近の『神なるオオカミ』(2005年)や『ワイルド わたしの中の獣』(2006年)ももちろん見逃さなかったが、どうも洋画ばかり、邦画の本格的“狼映画”はドーシタ? と吼えていたら、この新作が現れた。

母体はNARAtiveという『なら国際映画祭』の映画制作プロジェクトで、今後期待される若手監督を招き、奈良を舞台に撮るというもの。エグゼクティブ・プロデューサーにはカンヌ映画祭の常連で国際派の河瀬直美監督の名もある。

今回監督を任されたのは、キューバ出身でまだ30代の若手カルロス・M・キンテラ。奈良県・吉野、日本の原風景のような土地を舞台にどう撮るのか、興味津々だった。狼もどう撮るのか、と気になった。何しろ、日本では百年以上も前に狼は絶滅したというのが通説だ。この吉野の鬱蒼たる森でも、百年以上、ニホンオオカミは目撃されていない。それでも年老いた地元の猟師アキラ(藤竜也)は、狼はいる! と信じて疑わない。ほとんど「徳川埋蔵金は確かにある!」と言い張り、いまでも掘り続けている執念のオッサンみたいなものだ。

 

藤竜也という「老狼」を味わう映画

深山幽谷に分け入り、猟銃を背負って尾根から見下ろす藤竜也の佇まい、白髪交じりの頭髪、髭などに風雪を感じ、一幅の絵になる。キンテラ監督ははるか年上の老ハンターに畏敬を込めて撮っているのがよく分かる。それでいて上映時間は79分と意外にタイト。新進監督だと気負って、入れ込み過ぎて尺数が長くなる悪い傾向があるが、実に潔い。

とはいえ、孤高の猟師を美学的に絵にしているだけではない。地元の猟師会の会長でもあるアキラは、村長ら皆の反対を無視して猟師会の予算を勝手に狼探しに費やすもんだから、ついには会長の座を追われるハメに…という生臭い、人間くさい葛藤も描かれる。藤竜也が意外と“食えないオヤジ”を好演する。この味は、北野武監督が手掛けた主演作『龍三と七人の子分たち』(2015年)に近い? 藤竜也76歳、まだまだ枯れていないのが何より。

さて、肝心の狼だ。固唾を呑んで登場を待っていたが、定点観測のカメラの中にチラリと映る程度。とはいえ、日本にもオオカミ復活か、という幻想を紡ぐ点ではうれしかった。それより、これは“老狼”=藤竜也を味わう映画なのだと、改めて思った。

 

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