ダウンタウンを受け継いで千鳥も…イジリ=イジメ文化に支配される日本のお笑い業界

ダウンタウンを受け継いで千鳥も…イジリ=イジメ文化に支配される日本のお笑い業界

ダウンタウンを受け継いで千鳥も…イジリ=イジメ文化に支配される日本のお笑い業界 (C)PIXTA

いつまでも時間が止まり続けていた日本のお笑い業界だが、ここ数年、ようやく世代交代の機運が高まっている。しかし『ダウンタウン』に象徴される“空気を読むお笑い”は絶滅する気配がなく、新たな世代へと継承されているようだ。

松本人志と対立した2人の芸人

「ダウンタウン」の松本人志といえば、「空気を読む」「イタい」といった言葉を流行らせたと言われる空気のお笑いの第一人者だ。

かつて「ダウンタウン」の盟友だったこともある故・坂本龍一さんは、小説家・天童荒太との対談でその笑いの危険性に言及。彼らの芸が権威への反抗ではなく、年下の芸人をいたぶるものになっていると指摘した。

現代でいうところのイジリ芸だが、坂本さんはその価値観が子どもたちの「いじめ」を生んでいるものと同根だと警鐘を鳴らしている。

そんな予言が的中したかのように、現在の若手芸人は「ダウンタウン」に認められることが1つのステータスとなっている印象。そこには、ピラミッドのような笑いの権力構造があるのではないだろうか。

その実態について、空気を読まずに指摘したのが脳科学者の茂木健一郎だった。近年の芸人たちが「上下関係や空気を読んだ笑い」に終始していることを、ツイッター上で批判。その後、『ワイドナショー』に招かれて松本から直々に“公開処刑”されたのは有名な話だ。

相手をイタい奴として扱うという、空気のお笑いの真骨頂とも言える騒動だったが、これに猛反発したのが『オリエンタルラジオ』の中田敦彦。2017年4月に自身のブログにて、茂木の意見を大々的に擁護し、「ワイドナショー」の一幕にもチクリと皮肉を放った。

このことから吉本興業の幹部が謝罪を要求するほどの騒ぎとなるも、中田は徹底抗戦。現在でも松本との間に確執があると言われており、度々世間を騒がせている。

5月3日に出演した『あちこちオードリー』(テレビ東京)でも、中田は“匂わせ”ともとれる発言を投下。芸人の世界には「価値観を決めてる組織がいる」とした上で、その体制が「30年ぐらい続いてる気がして、気持ち悪いんですよね」と熱く語っていた。

ところで松本と中田の対立には、どこか既視感のようなものが付きまとう。1990年代から最近まで続いていたという、『爆笑問題』太田光と松本の確執にそっくりなのだ。

なにせ太田といえば、空気を読まない芸人の代表格。中田が「爆笑問題」を強く尊敬しており、ラジオのヘビーリスナーだったことも、この構図の裏付けになるだろう。

『千鳥』が継承した空気のお笑い

近年の松本は、度々芸能界からの引退を示唆している。早ければ2年、遅くとも5年と漏らしていたが、そう遠くない未来に世代交代が行われるのかもしれない。

そこで後釜と目されているのが、同じく吉本興業で芸人からの支持率も高い『千鳥』だ。ノブと大悟は2人とも「ダウンタウン」への尊敬を公言しており、空気のお笑いの後継者としても有望だ。

5月4日には、『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)でファッションブランド「John Lawrence Sullivan」の商品をめぐる“デニムイジり”の炎上が起きたばかり。まさに空気のお笑いが招いた騒動だったように思えてならない。

そして中田はそんな「千鳥」に対して、ライバル心を抱いているようだ。「あちこちオードリー」出演時には、「一番なんか“そうじゃない笑い”だから」「あんまり面白いって言いたくないな、みたいな」と嫉妬心を吐露していた。

次の世代では「ダウンタウン」と「爆笑問題」に代わって、「千鳥」と「オリエンタルラジオ」の冷戦が繰り広げられるのかもしれない。

なお、イジり=イジメ的な笑いについては、テレビを飛び出し、現実に大きな影響を与えているという見方もある。

近年は“ひろゆき”こと西村博之氏に代表されるように、熱く生きる人間をあざ笑う「冷笑系」の存在が問題視されている。また、政治家や官僚の間では空気を読む「忖度」の文化が根付いて久しい。こうした流れの背景として、「ダウンタウン」が30年近く育んできたテレビ文化の影響を見出すこともできそうだ。

芸人のYouTube進出や、地下芸人ブームなどが取り沙汰されつつも、なかなか多様化しない地上波芸人の価値観。この構造が崩れ去る日は来るのだろうか…。

文=大上賢一

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