不埒な元亭主を乗り越えた高島礼子が「美しい所作」を見せる映画

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『おみおくり』

配給/トリプルアップ 有楽町スバル座他で3月24日より全国順次公開
監督/伊藤秀裕
出演/高島礼子、文音、渡部秀、宮下順子、加藤雅也ほか

邦画で言えば、昨秋に公開された祖父の葬儀を描いた『おじいちゃん死んじゃった』、今年に入っての葬儀の“泣き屋”を題材にした『見栄を張る』(奇しくも『おみおくり』と同日の24日封切で“葬儀対決”か?)もある。洋画でも今年だけで『ロング、ロングバケーション』、『あなたの旅立ち、綴ります』、『ラッキー』など、葬儀や“終活”がテーマの作品が目立つ。高齢化社会を如実に反映していて、改めて「映画は社会を映す鏡」とは言い得て妙、ではないか。この映画もその一本と言えるだろう。

伊藤秀裕監督は日活ロマンポルノのころからのベテランで、職人技を発揮している。題材が珍しい。亡くなられた方に死化粧を施す納棺師が主人公で、おまけに女性というのが、余計に珍しい。実在の女性納棺師・永井結子の著書『今日のご遺体 女納棺師という仕事』を原作に、お別れの現場7つに立ち会う形で、その仕事ぶりが描かれる。

棺に収められたのがまだ3歳の娘だったり、自殺した会社員だったり、交通事故死した父親だったり、認知症のおばあちゃんの介護をしていたおじいちゃんだったり、結婚直前で急死した若い花嫁だったり…。人それぞれ、人生さまざま。その哀しみの現場、送る者と送られる者とのふれあい、葛藤が浮き彫りになる。

 

ヒロインはなぜ納棺師という仕事を選んだのか?

ヒロインが『極道の妻たち』シリーズなどのご贔屓美熟女、高島礼子だから、それだけで見たくなる。所作も美しい女優なので、こういうキッチリとした仕事をする役柄が実に似合う。最近、元亭主の不祥事などで肩身が狭かったようだが、久々の主演作だけに力も入ろうというのもの。個人的には大いに応援したい。

そんな女性納棺師に弟子入りする若い女性が文音。ふたりが仕事道具一式の入ったカートを持って各地を回る。あたかも“さすらいの女納棺師”のようで絵になる。ヒロインはなぜ納棺師という仕事を選んだのか? 彼女が抱える心の哀しみが後半、明らかになる。

あえて言えば、納棺師という仕事の特殊性をもっと詳しく描いてほしかった。流派があるのかとか、年収はとか、死化粧道具の素材や注意事項、死後硬直しているご遺体をどう扱うのかとかをもっと。まあ原作を読めば分かるのかもしれないが…。邦画で言えば、古くは伊丹十三監督の『お葬式』(1984年)、近年では滝田洋二郎監督の『おくりびと』(2008年)などの流れを汲む作品か。襟を正し、心を落ち着け、誰かを想いながら見たいヒューマン・ドラマであった。

 

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