猛暑を少しでも涼しく…目で感じる昭和の涼「水中花」

蒸し暑い日本の夏。エアコンのスイッチを押すだけで瞬時に快適になる時代になって久しいですが、まだ庶民の家庭にエアコンが普及していなかった1970年代あたりまでは、風鈴・打ち水・扇子・すだれ・金魚・虫の音・かき氷など、日本人は五感をフルに使って少しでも“涼”を感じようと工夫してきました。

そんな中の1つ、視覚で涼を得るために用いられた小道具が『水中花』です。

歴史は古く、その原型は江戸時代に中国から伝わってきたもので、酒席の遊びとして杯に浮かべて楽しんだのが始まりだとか。明治時代から日本の花鳥風月を表現した特産物としても盛んに作られました。

数年前までは『都』という会社が製造を続けていたのですが、現在は中止となり、デッドストックが少量流通しているのみです。では、手元にある都社製の水中花を見てみましょう。

土台となる重りは陶器、茎は針金に造花用の緑色の被覆を巻いたもの、葉は特殊な繊維状の素材や樹脂、花びらはカミヤツデの髄からつくられる通草紙(つうそうし)でできているそうです。

これを水の入ったコップに入れると、閉じた花びらが水を吸収して膨らみ、鮮やかに開きます。花びらが水の中で妖しくユラユラと揺れる姿は、なかなか夢幻的な美しさがあります。水中で咲く花なんて、昔の人は随分ロマンチックなものを思いついたものだと感心してしまいますね。

今では水中花を愛でるという趣味はすっかり廃れてしまいましたが、1970年代ごろまでは喫茶店にインテリアとして置かれていたり、家庭で普通に親しまれていました。

デパートや大きな玩具店ではこんな立派な化粧箱入りのセットも販売されていたほどです。御中元にそうめんといっしょに送ったら「酔狂な人だなぁ」と思われたかもしれません。

そういえば先日、デパートで液体が満たされたガラス製の容器の中に美しい花がたくさんつまった商品を見ました。「あっ、水中花だ!」と思わず心の中で叫んでしまいましたが、特殊なオイルの中にプリザーブドフラワーやドライフラワーを浸した『ハーバリウム』という流行のインテリア雑貨だそうで、この状態で数年もつそうです。

何しろ本物の花ですから非常にきれいで、お値段も水中花とは比べ物にならないほど高価。でも、やはり私は紙製のチープで儚げな水中花の方が好きですね。

(写真・文/おおこしたかのぶ)

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