どこか懐かしい男女3人半同棲の現代物語『きみの鳥はうたえる』

きみの鳥はうたえる

 

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『きみの鳥はうたえる』

配給/コピアポア・フィルム 9月1日より渋谷ユーロスペースほかにて公開
監督/三宅唱
出演/柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、萩原聖人ほか

原作は若くして自死した佐藤泰志。一時、忘れかけられたが、近年『海炭市叙景』(10年)、『そこのみにて光輝く』(13年)、『オーバー・フェンス』(16年)と映画化が相次ぐ。そして何より魅力的なのはキャスティングだろう。柄本明の息子の柄本佑に加え、石橋凌、原田美枝子の娘の石橋静河も著名俳優の二世だが、ジュニアだの七光りだのとは関係ないところで実力を発揮している。特に、静河は昨年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で新人女優賞をほぼ独占した逸材で、小柄な体なのに大物感たっぷり。加えて、若手実力トップの染谷将太と3人で紡ぐ“青春映画”だから注目度はベラボーに高い。

函館郊外の書店で働く「僕」(柄本佑)は、失業中の親友・静雄(染谷将太)と小さなアパートで共同生活をしていた。しばらくして「僕」と同じ書店で働く佐知子(石橋静河)とひょんなことから関係を持つ。彼女は、店長とも腐れ縁が続いているようだが、あまり気にすることなく、その日から2人のアパートに遊びに来ては、3人で気ままな生活を始めるようになる…。

 

どこか懐かしさの漂う青春映画

別にものすごい事件が起こるわけではない。修羅場になるわけでもない。ただ、この男女3人の函館におけるひと夏の物語が淡々と綴られる。酒を飲み、クラブで騒ぎ、ビリヤードや卓球をしたり、時々“半同棲セックス”したりもする。あまり激しい性描写があるわけではないが、そのナチュラル感が眩しい。小柄で華奢だが、しっかりとした体をしている静河の姿態も素敵だ。開放的なダンスやカラオケ・シーンの彼女にほれ込んでしまう。

現代の話なのだが、どこか懐かしい。そこはかとなく“昭和感”が漂う。主人公たちの名前が、静雄、佐知子と昭和っぽいからか。原作は東京だが、佐藤泰志のホームグラウンド(過去の作品の多くがソレ)の函館にあえて設定したのは賢明だった。地方都市にまだ残る昭和の佇まいが味わえるのが何より。この3人の気分も、佐藤がこの原作を発表した81年に近いあのころ(昭和50年代)と共通する。当時、この3人と同世代、似たような環境だったボクとしては、たとえ浮草な日常でも、将来に対する不安なんぞあまり感じず、友達同士でよくツルんで行きつけの店で飲んだり遊んだり、バカをやったり、身近で手近な女の子とくっついたり別れたり、そんな男2人女1人というと“トライアングル・ラブ”に分け易い。

確かに『冒険者たち』(67年)の昔から青春映画の定番だが、この3人は、その定番から軽やかに逸脱する。適度に爽やかで、適度にかっこ悪い。そのさじ加減が実に素晴らしい。新鋭監督・三宅唱は、安易な破滅もサクセスも描かない。若い日々を生きる者たちの“呼吸”とはこういうもの、そういえば確かにそうだったよな、と久々に思い起こさせてくれる。中高年世代にもビターでスイートな感慨を与えてくれる好編! と断言したい。

 

【あわせて読みたい】