クロロホルム強姦魔の狂気を描いた『水のないプール』…“俳優”内田裕也を偲ぶ

『水のないプール』

作品目『水のないプール』
若松プロ 1982年 DVD発売中
監督/若松孝二
出演/内田裕也、中村れい子、MIE、原田芳雄、タモリほか

肺炎のため、3月17日に79歳で死去したロック歌手、内田裕也氏。妻の樹木希林さん(享年75)を昨年失って、まるで後を追うように、と形容されがちだが、その通りの旅立ち方だった。パートナーに先に逝かれると男は急に弱る、ってことをあらためて思い知らされた。そういえば昨年78歳で亡くなった津川雅彦氏も、妻の朝丘雪路さん(享年82)が逝って数カ月後に、それこそ“後を追うように”黄泉の国へ…であった。

そんな内田氏がバリバリにヤンチャだった40代半ば、実際に81年に仙台で起こった〝クロロホルム暴行事件〟に材を取った、この傑作の主役たる奇妙な犯人を演じていた。

女房持ちの中年地下鉄職員(内田)は単調で屈辱的な日常に飽き飽きしていた。そんな彼が、密やかな犯罪行為に手を染めるようになる。それは、以前から目を付けていた若い美人のウエートレス(中村れい子)の独り暮らしの部屋に侵入し、大量のクロロホルムをまき、彼女が眠っている間に〝優しく〟犯すというものだった…。

 

“和合”を夢想する破滅的中年男

もちろん、こんな昏睡強盗で女性を弄ぶなんて卑劣極まる行為であり、許されないことだが、映画というフィルターをかけるとこれが奇妙な味わいとなり、観る者に、犯人と同様の〝不思議な夢〟を見させる。注射器からまるでザーメンの放出のように静かに噴出するクロロホルム。冴えない中年男がごく自然に犯行へと至り、身勝手な〝想い〟を遂げるプロセスを丁寧に描くのは、こちらも残念ながらすでに鬼籍に入られた鬼才・若松孝二だ。

ヒロインの中村は当時セクシーな新星として注目され、この〝眠れる美女〟役が好評を博した。あの濡れたような大粒の唇がたまらなかった。昏睡しているから、前夜わが身に降りかかった災厄は当然覚えていない。まるで白昼夢に襲われたかのような怪訝(けげん)な朝を幾度となく迎える彼女の風情が最高だ。このクロロホルム暴行犯、妙に義理堅いところがあり、彼女の眠っている間に、モーニング・コーヒーを沸かしておいたり、果ては調子に乗って下着の洗濯までしておいたりして部屋を去るのだから奇妙である。そこがなぜかおかしい。もっとも、相手女性としたら、気持ち悪くて仕方ないだろうが…。

加害者と被害者の奇妙なコミュニケーションの果て、そこに〝和合〟が生まれるはず、という身勝手な淫夢を抱いた中年男を演じた内田が絶品だった。これ以降『十階のモスキート』(83年/崔洋一監督)、『コミック雑誌なんかいらない』(86年/滝田洋二郎監督)と併せて、内田裕也破滅的中年男モノ三部作の1本として追悼したいほどだ。

(映画評論家・秋本鉄次)

 

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