惚れた女のため斬って斬って斬りまくる!本格時代劇『多十郎殉愛記』

『多十郎殉愛記』

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『多十郎殉愛記』

配給/東映 新宿バルト9ほかにて全国公開中
監督/中島貞夫
出演/高良健吾、多部未華子、永瀬正敏、寺島進、木村了ほか

〝時代劇〟が往時に比べ衰退して久しい。いつの間にか地上波で放映されるのは、ほとんどがスペシャルの単発もの(『必殺仕事人』シリーズなど)になってしまい、熱心な時代劇ファンはCSの「時代劇チャンネル」や地上波の再放送などで〝飢え〟をしのいでいるありさまだ。その窮状を見兼ねたのか、『木枯し紋次郎』シリーズや『日本の首領』シリーズなどで知られる超ベテラン、84歳の中島貞夫監督が、20年ぶりに〝本篇(劇場用映画)〟として本格時代劇を撮った! というだけでオールドファンは期待するだろう。

幕末、京都の貧乏長屋に住む多十郎(高良健吾)は、ワケありの小料理屋女将・おとよ(多部未華子)に世話を焼かれながら、怠惰な日々を過ごしていた。やがて京都見廻組に目を付けられた多十郎は、愛するおとよが無事に京都を離れるまで、自らが囮のようになり、大勢の役人を相手に町中を逃げまくり、そして刃を交える…。

 

チャンバラこそ時代劇の真骨頂

多勢の相手にたった1人で立ち向かい、斬って、斬って、斬りまくるチャンバラの魅力が、クライマックスに訪れる。中島監督が目指したのは戦前の時代劇、例えば1926年の『幕末剣史 長恨』など。個人的に戦後で思いつくのは、大川橋蔵主演の『大喧嘩(おおでいり)』(64年)や、戦前作のリメークで市川雷蔵主演の『大殺陣 雄呂血』(66年)など。そんな醍醐味は久々だろう。ちなみにこの新作の当初の題名は『大殺陣-殉愛記』だった。

主人公を演じる高良健吾がその鋭角的なルックスを利して、スバリ適役。中島監督作品の常連だった今は亡き菅原文太のイメージすらある。痩身のニヒルな剣客といえば、眠狂四郎や平手造酒が想起させるが、将来そんな著名キャラもハマリ役になりそうな高良であり、現代劇でも『月と雷』(17年)などで気を吐き、個人的に注目している若手男優である。ヒロインの多部未華子も、丸顔で着物の似合う純日本的美貌を生かし、女将役を凛々しく演じている。

何より長屋のセットや、配される住人たちの風情が素晴らしい。そして、いったん屋外に出るや高良=多十郎が、この映画のための特訓の成果か、走り、跳び、逃げ、そして斬る! 欲を言えば追っ手の数がもっと多くて、さらに〝人を波のように動かす〟ようになっていればより興趣が増したろうに。とはいえ、時代劇衰退期において、これが現状ベターなのだろう。さらに言えば、多十郎とおとよの〝濡れ場〟っぽいものが欲しい、と言ったら中島監督に『これは殉愛だぞ、バカモン』と言われそう。平成最後の時代劇を観よ!

 

【あわせて読みたい】