「まんぷく」女優・岸井ゆきのが都合のイイ“やらせて”女を好演『愛がなんだ』

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『愛がなんだ』

配給/エレファントハウス テアトル新宿ほかにて全国公開中
監督/今泉力哉
出演/岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也。江口のりこほか

ヒロインの岸井ゆきのは、好視聴率だったNHK朝ドラ『まんぷく』で、安藤さくらの姪っ子・タカちゃんを演じた個性派女優。今年27歳なのに、童顔のせいか、初登場時14歳の役を演じて全く違和感がないのに驚いた。すでに女優として〝10年選手〟なのだが、これで全国的知名度を勝ち得たのだから、ご同慶の至りだ。個人的には別に好みのタイプじゃないのだが(失礼!)、何か気になる女優さん。『まんぷく』では正統派の役柄だったが、彼女の本領は『友だちのパパが好き』(15年)みたいなヘンな作品でこそ発揮されると思う。その点、この新作はかなりヘン、けっこうマニアック!

28歳のOL、テルコ(岸井ゆきの)は、ダメな男のマモル(成田凌)のことを猛然と片思いし、仕事も友情もそっちのけで最優先する。もっともマモルにとっては、テルコは電話1本で駆け付けてくれる〝都合のいい女〟でしかなかった…。

 

“クセになる”いびつな恋愛映画

とにかくヒロインののめり込み具合が半端じゃない。さほど魅力のある男には見えない彼氏(十分に魅力的な若手俳優、成田凌が演じているから面白い)を盲愛するにもほどがある。それはもう痛々しいほどなのだが、単に〝痛い女〟に終わらせず、その妄想・暴走ぶりがここまでくると一種突き抜けて〝乾いた笑い〟すら誘発させるのが味わいどころ。これも岸井ゆきののヘンな魅力ゆえか。友人に「あんた、不思議ちゃんを通り越して不気味ちゃんだよ」とか、「フラれても平気でメシが食えたり、〝死にたい〟って絶対言わないのがある意味スゴい」とか言われるキャラを、彼女はのうのうと演じている。

マモルが、恋する年上女性(江口のりこ)とうまくいかず、身勝手にもテルコに〝やらせて〟と頼み、それを受け入れるシーンがあるが、このなし崩し的なセックスを、テルコが本当は未練たらたらなのに、あえて途中でやめてしまうあたりのさじ加減が絶妙。おかげでセックスシーンは中途半端だが、まあ、しゃあない。

ところで、マモルに惹かれる理由の1つに〝手だけはきれいだから〟というセリフがある。女性には〝手フェチ〟が少なくないので、この設定にテルコのこだわりや執着を感じさせ、実に説得力があった。逆に、女性の手にまず惚れる男は少ないだろうから。

原作は『八日目の蝉』や『紙の月』などで知られる角田光代。狂おしいまでのどうしようもない愛を描かせたら天下一品だが、むしろ、この新作のような小品にこそ〝角田タッチ〟が色濃く出るのかもしれない。岸井ゆきのという個性が醸し出すこのいびつな恋愛映画は、かなり〝クセになる〟のである。

 

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