まさに怪演!『アリスとテレスのまぼろし工場』で岡田麿里が引き出した声優・久野美咲の衝撃演技

まさに怪演!『アリスとテレスのまぼろし工場』で岡田麿里が引き出した声優・久野美咲の衝撃演技

まさに怪演!『アリスとテレスのまぼろし工場』で岡田麿里が引き出した声優・久野美咲の衝撃演技 (C)PIXTA

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の岡田麿里が脚本・監督を務めるアニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』が、9月15日に公開された。独特の世界観や観客の意表をつくストーリーなど、見どころが盛りだくさんの傑作となっているが、なかでも注目を浴びているのが声優たちの冴えわたった演技力だ。

【関連】ジャニーズ騒動でアニメ業界も大ダメージ! ジャンプ・ジブリ・新海誠の声優起用にも影響か ほか

少女声優・久野美咲が見せ付けた才能

同作の物語が展開するのは、「変化すること」を禁じられた町・見伏。14歳の少年・菊入正宗は、ミステリアスな同級生・佐上睦実に連れられ、立ち入り禁止の製鉄所に入り込む。そこでこの世界にとって異質な存在である少女・五実と出会うことになる──。

主人公・正宗役の榎木淳弥を筆頭として、メインキャストには近年頭角を現している演技派の声優たちが勢ぞろい。とくに女性キャラクターが感情を爆発させるシーンが多いことから、女性声優たちの演技力が存分に発揮される作品となっている。

それを象徴するのが、五実役を演じる久野美咲の存在だ。久野は天真爛漫な少女の演技に定評があり、最近でも『リコリス・リコイル』のクルミや『原神』のクレー、『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』の市原仁奈といった代表作を生んできた。

そして今作でも“いつも通り”に少女役に抜擢されたのだが、その味付けは異質、もしくは異常だ。まず五実は言葉をほとんど話せない、野生の狼のような少女として観客の前に現れる。その後、動物的なエネルギーに満ちた挙動で物語をかき乱したかと思えば、徐々に心の成長を見せていき、最終的には“1人の女性”として巣立っていく。

たった2時間足らずの劇場アニメで描き出すには、あまりに重厚すぎるキャラクター設定だが、それを支えたのが久野の演技力だった。文字通り、憑依させるかのごとく少女の成長を演じきっており、声優としてのキャリアにおける1つの到達点と言いたくなるほどだ。

岡田麿里が開花させてきた才能の数々

今作では久野だけでなく、メインヒロインにあたる佐上睦実役の上田麗奈も、観客の度肝を抜くような演技を披露している。それはもちろん彼女たちの演技力あってのものだが、同時に監督・岡田麿里との“化学反応”とも言えるだろう。

岡田は脚本家時代から、キャラクターを記号ではなく、血肉が通った人間として描くことに執心してきた。その作風は、記号的なキャラクターを量産する近年のアニメとは真逆の方向性を向いている。だからこそ、声優の真価を引き出すことができるのだ。

たとえば岡田が脚本を手掛けた「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」では、茅野愛衣が本間芽衣子(めんま)役としてけた外れの演技を発揮。

また、最近『【推しの子】』黒川あかね役でブレイク中の石見舞菜香は、岡田の初監督作『さよならの朝に約束の花をかざろう』がキャリアの出発点であり、高い演技力の原点ともなっている。

さらに2015年に公開された『心が叫びたがってるんだ。』では、水瀬いのりが主人公の成瀬順を演じたが、共演した女優の吉田羊がその演技力に圧倒されたことを明かしていた。

岡田は声優の新たな才能を開花させることで、作品の強度を高めることに成功してきたと言える。その意味では最新作「アリスとテレスのまぼろし工場」も、実に“岡田麿里らしい”映画なのだろう。

文=猿田虫彦

【画像】

Khosro / PIXTA

【あわせて読みたい】