末次由紀に石川雅之、新海誠…『鬼滅の刃』の大ヒットに心を乱されるクリエイターたち

『鬼滅の刃』1巻(吾峠呼世晴/集英社)

今や『鬼滅の刃』は、マンガ・アニメの歴史に残るメガヒット作にまで成長した。現在公開中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、歴代最速で興行収入300億円を突破する快挙を成し遂げている。世間では多くの人が作品に熱狂しているが、その陰で〝鬼滅ショック〟を受ける同業者も存在するようだ。

実写映画化やアニメでも人気を博した少女マンガ『ちはやふる』の作者・末次由紀は、12月7日に「鬼滅の刃」について言及。コンテンツ投稿サービス『note』上で、「『鬼滅の刃』に焼かれる心が、深い愛で救われた話」と題した記事を公開した。

末次は『週刊少年ジャンプ』連載中から「鬼滅の刃」を読んでおり、作品が「大好き」だと綴る。しかし同じマンガ家として、同作ほどの大ヒット作を生み出せていない現状に複雑な心境を抱く。子どもたちが「鬼滅の刃」にハマっている姿をみて、嫉妬のような感情が芽生えてしまったという。さらには子どもから〝ママも鬼滅の刃みたいなの書けばいいのに〟と言われ、傷ついてしまったそうだ。

とはいえ記事は恨み節では終わらず、自身のファンから送られてきた〝二次創作〟によって心が救われた…というエピソードが綴られている。

クリエイターの心理を赤裸々に明かした末次に対して、ネット上では《あの「ちはやふる」の作者でさえ嫉妬するのかと思ったけど、あまりにも高次元過ぎて負の感情すら美しく見えてしまう》《こんな大作家でも、こんな感情になるものなのでしょうか…人間って…》《創作する側の方が「鬼滅の刃」をどう捉えているのか、というのがよく伝わる文章。作家だからこそ書ける当事者性に響くものがありました》などと驚きの声が上がっていた。

さまざまな「本音」を明かすクリエイター

「鬼滅ブーム」に振り回されているクリエイターは、末次だけではないようだ。たとえば『もやしもん』の作者・石川雅之は、今年4月にツイッターで「鬼滅の刃」関連の呟きを投稿。娘から「おとうさんもさぁ鬼滅の刃みたいなの描けばいいじゃん」と〝無茶ぶり〟を受けたと明かしている。

しかし、そこは一流のマンガ家。娘からの挑戦を受けて立ち、「鬼滅の刃」に登場する敵キャラ・上弦の肆と伍のイラストを描いてみせたという。ツイッターでそのイラストを公開すると、ファンからは《プロの本気のイタズラを見ました》《うわぁ、さすがリアル…鬼を描くところが先生らしいですね》《さすが先生です! 上弦を醸してくださりありがとうございます!》といった歓声が沸き起こっていた。

また『君の名は。』や『天気の子』などを手掛けたアニメ監督・新海誠は、今年11月に映画の興行収入についてツイート。「鬼滅の刃」が「君の名は。」の興行収入を超え、歴代3位になったというニュースに対して、「悔しいなあと思いつつも、記録が常に上書きされていくのもエンタメの持つ健全さですね」とさわやかにコメント。「僕も良い映画が作れるよう、せめて日々がんばります」と前向きな姿勢を示していた。

その一方、長いキャリアをもつライトノベル作家・吉岡平は、ややネガティブな方向性で「鬼滅の刃」に言及。吉岡は90年代に一世を風靡したアニメ『無責任艦長タイラー』の原作者だが、アニメ化の出来に関して不満を抱いていたよう。「鬼滅の刃」の劇場版が原作者も納得するクオリティだったことについて、「映画の中で声優さんたちが発する命を吹き込まれたセリフは 悉く原作通りで 場面も ほぼ原作通りだもんなあ 羨ましいの一語だ」と吐露していた。

優れたクリエイターたちは、お互いに影響を与えながら新たなコンテンツを生み出していくもの。「鬼滅の刃」もまた、次の時代を作るような作品の礎となることだろう。

文=大上賢一
写真=まいじつエンタ

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