文学のチープ化? 加藤シゲアキと尾崎世界観の「文学賞ノミネート」に不満の声

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日本で最もネームバリューのある文学賞『芥川賞・直木賞』のノミネート作品が、12月18日に発表された。そこにミュージシャンやアイドルが名前を連ねたことで、読書家たちの間では大きな不満の声があがっている。

文豪・芥川龍之介の名を冠した「芥川賞」には、人気ロックバンド『クリープハイプ』のボーカル・ギターとして活躍する尾崎世界観がノミネート。尾崎は2016年に半自伝的な小説『祐介』によって作家デビューを果たして以来、数々の小説を手掛けてきた。今回選考対象となった作品は、『新潮』12月号に掲載された中篇小説『母影』だ。

その一方、『NEWS』のメンバーとして知られるジャニーズアイドル・加藤シゲアキは、優れたエンタメ作品に授与される「直木賞」の候補に選ばれた。ノミネート作品は3年ぶりの新作長編『オルタネート』で、インターネットと現実という2つの社会で成長していく少年少女を描いた小説となっている。

両者ともに本業は別ジャンルでありながら、作家としてもキャリアを積み重ねてきた人物。しかし、ネット上では選考基準に不信感を抱く人も多いようで、《ノミネートでさえ疑問を抱くけど、仮に受賞したら困惑するわ》《いっそ芸能人枠作っちゃえば?》《毎回毎回客寄せノミネートはいい加減にしてほしい》《出版不況だから大変だね。ある程度知名度ある人入れないと見向きもされない》《芥川賞だけじゃなく直木賞まで安っぽくなっていく…》といった声が相次いでいた。

「作家のアイドル化」は出版業界の希望?

文学賞の選考で著名人の名前を見かける機会は、以前より格段に増えている。テレビ番組への出演も多い社会学者・古市憲寿は、これまで二度にわたって「芥川賞」の候補に。またロックバンド『SEKAI NO OWARI』のSaoriは、本名である「藤崎彩織」名義で発表したデビュー作が「直木賞」の候補となっていた。いずれも受賞には至らなかったが、メディアでは大々的に取り上げられることに。もし話題作りが目的だったとすれば、その効果はてきめんだったと言える。

出版業界が著名人の起用に舵を切っている現状には、一体どんな背景があるのだろうか。まず大きな原因としては、2015年の芸人・又吉直樹による「芥川賞」受賞が考えられる。受賞作の『火花』は実写映画化され、単行本は200万部以上の発行部数を叩き出したメガヒット作。いわゆる〝純文学〟というジャンルの作品としては、奇跡と言っていいほどの売れ行きだ。

さらに時を巻き戻すと、20年近く前にも文学賞による話題作りが問題視されたことがあった。2003年、当時19歳の女性作家・綿矢りさが『蹴りたい背中』によって最年少で「芥川賞」を受賞したのだ。作品自体は批評家からも高く評価されていたが、メディアでは〝若い女性作家〟であることが強くアピールされていた。

綿矢は現在も旺盛な執筆活動を続けており、『勝手にふるえてろ』や『生のみ生のままで』など、業界内外で高く評価される作品を生み出している。とはいえ、現状から振り返って考えると、そのデビューは〝作家のアイドル化〟と揶揄される現在の出版業界に大きな影響を与えているのかもしれない。

エンタメ作品を扱う「直木賞」はともかく、「芥川賞」は優れた純文学の作品に贈られる賞。短期的な話題作りに走るあまり、賞の価値を落とす結果にならなければいいのだが…。

文=大上賢一

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