
『地球星人』(村田沙耶香/新潮社)、『夏物語』(川上未映子/文藝春秋)、『おばちゃんたちのいるところ Where The Wild Ladies Are』(松田青子/中央公論新社)、『JR上野駅公園口』(柳美里/河出書房新社)
まだまだ収束に向かう気配のないコロナ禍の今。年末年始に何をして暇をつぶそう…と悩んでいる人もいるだろう。そこで本稿では、アメリカのニュース雑誌『TIME』が発表した「2020年の必読本」リストに注目。見事選出を果たした日本の小説をピックアップし、その魅力をご紹介していく。
「地球」に息苦しさを感じる人へ…村田沙耶香『地球星人』

『地球星人』(村田沙耶香/新潮社)
まずご紹介したいのは、2018年に刊行された村田沙耶香の長編小説『地球星人』だ。村田は、2016年に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した実力派作家。つねに社会の常識を疑うことで、不条理な世の中をユーモアをもって描き出してきた。「地球星人」にも、世界の〝異端児〟である村田の作風がいかんなく発揮されている。
恋愛が素晴らしいことだと持ち上げられ、若い女がセックスによって人間を生産している地球。しかしそのシステムは、地球星人が繁殖するために作り上げたものでしかない。地球外からやってきたポハピピンポボピア星人であり、魔法少女である奈月は、世界=人間工場と対峙していく──。作中で披露される世界観はあまりに強烈で、読者に大きなインパクトを与えるだろう。
右へ倣えで物事が動いていく日本社会にあって、あえて〝空気を読まない〟村田の小説は激しい賛否両論を巻き起こすことに。読者の間では《ぶっとんだ村田ワールドがくせになる》《クレイジー沙耶香の愛称にふさわしく、世の中の常識、特に家族や性愛、ジェンダーに対する激しい疑問の声が聞こえてくる》《読み進めるのがつらくなった。村田ワールドになじめない》《作品として何が言いたいのか理解不能》などと、さまざまな反響があがっていた。
「地球星人」には、思わず目を背けたくなるような性描写やグロテスクな表現も出てくるので要注意。読む際は体力を温存してから挑もう。
“性”をめぐる鋭い洞察──川上未映子『夏物語』

『夏物語』(川上未映子/文藝春秋)
続く2冊目は、芥川賞作家・川上未映子の手がけた『夏物語』。芥川賞受賞作である『乳と卵』をもとに、主人公・夏子の10年後を描いた物語だ。夏子はパートナーなしの出産を目指す中で、精子提供によって生まれた潤という男性と出会い、心を通わせていく…。生命の意味をめぐる真摯な問いを、極上の筆致で描いた作品となっている。
すぐれた言語感覚やジェンダーに関する鋭い感受性が、川上作品の大きな魅力だろう。『夏物語』についても、読者からは《女が女でなくなることへの不安について深く考えさせられる内容だった》《さまざまな登場人物の描写の総体として、女であることの宿命を感じ取った》といった感想が。『TIME』誌公式サイトでも、〝現代の女性が抱える不安を痛烈に、かつ素晴らしく滑稽に強調している〟と評されていた。
ビビッドな才能が発揮された『夏物語』は2020年の「本屋大賞」にノミネートされた他、第73回「毎日出版文化賞」の文学・芸術部門を受賞。さらに20カ国以上で翻訳されており、言語の壁を越えて愛されているようだ。ちなみにあのハリウッド女優ナタリー・ポートマンもインスタグラムで同書を読んでいる姿を投稿し、話題を呼んでいた。