醸造技師にインタビュー! 初心者でも分かる「クラフトビール」の選び方【前編】

ここ数年、「クラフトビール」の人気が止まらない。クラフトビールを扱う醸造所や販売会社の数も、増加の一途をたどっている。若者のビール離れが叫ばれているにもかかわらず、一体なぜ隆盛を極めているだろうか?

本稿では、『風上麦酒製造』最高経営責任者であり、『東海道BEER川崎宿工場』の醸造技師でもある田上達史(たのうえ さとし)氏にインタビューを敢行。クラフトビールが人気を集める謎に迫っていきたい。

ビール造りのきっかけは憤り!?

左から『FRO AGARI YELL』、『麦の出会い』、『薄紅の口実』、『黒い弛緩』

「東海道BEER川崎宿工場」は、京急川崎駅から歩いて7分ほどの場所にある。4種類の定番メニューと数種類の限定ビールがあり、もちろんどれも味わい深い。いちごやハチミツ、コリアンダーなど、「それをビールに入れるのか!?」という素材を用いたビールは、新しい驚きを与えてくれる。

中でも群を抜いて個性的なのは、プロサッカークラブ『川崎フロンターレ』と共同開発した『FRO AGARI YELL(フロアガリエール)』。勝負にこだわる「川崎フロンターレ」にちなみ「菖蒲」を配合したビールは独特の香りがとても強く、後味にレモンの苦みを感じるビールだ。田上氏曰く、「レモンを使ったビールというと、レモンスカッシュみたいなものが多いですが、それは嫌だったので、レモンの癖を出しました」とのこと。飲んでみれば、「苦い、しかしまた飲みたくなる」という不思議なテイストに惹かれるだろう。

数々の名作ビールを生み出した田上氏がクラフトビールを作ろうと思ったきっかけは、なんと「憤り」だという。一体どういうことなのだろうか?

──何に対して憤ったのですか?
田上氏:自分がプロになった時は、ちょうどアメリカでクラフトビールが流行って、どんどん人気が高まってきていて、その中心は「IPA」だったんです。それが流行ったもんだから、日本のクラフトビールメーカーはみんなそれになっちゃったんですよ。日本人の良くないところというか。

──「右にならえ」的な?
田上氏:うん、「右にならえ」で、それまであった商品もすべて柑橘系の香りのする苦いビールというものに統一されていって。そういう日本人の個性のないのが本当に嫌いだったんですね。もっと世界中にはいろんなビールがあるのに、アメリカの一部だけに合わせてみんなが横並びなのがすごく嫌で、だったら自分で「ビールの世界の広さを伝えたい。何でもアリなんだよ」っていうことを見せてやりたかったというのがきっかけです。

「憤り」に端を発した田上氏のクラフトビール造り。『風上麦酒製造』で手掛けていたクラフトビールは、ビールの幅を広げるような挑戦的で強い味と香りを持ったものばかりだったそう。現在は少々丸くなったものの、ある程度は挑戦的であり続けているという。