『ONE PIECE』の“読みにくさ”には理由があった! 尾田栄一郎の知られざる戦略とは

『ONE PIECE』98巻(尾田栄一郎/集英社)

1997年の連載開始から、今なお人気が衰えない漫画『ONE PIECE』。コミックスは全世界で累計4億8000万部を突破しており、国民的作品の1つとなっている。とはいえ、いくら優れていても万人に好かれる作品というものは存在しない。漫画好きの間では、「最近のワンピは読みにくい」といった指摘がよくあがっているようだ。本稿では「ONE PIECE」の〝読みにくさ〟について考察していきたい。

まず、「ONE PIECE」に不満を抱く人の声を見てみよう。もっとも目立つのは、書き込みの量が多すぎるという指摘。ネット上では《ワンピは書き込み多すぎて読むの辛い。書き込めばいいってものでもないのでは…》《書き込みと文字数が多すぎる…。もうちょい1コマ1コマ大きくした方がわかりやすい》《一コマに入ってる情報量が多すぎて読むのすげー疲れる。てか書き込み量がえぐすぎて、ぱっと見たとき何が起こってるかわからないことが多々ある》といった声があがっている。

また一般読者だけでなく、タレントの本田翼が同じような意見を発信したことも。昨年11月のYouTube配信で、本田は「鬼滅とか呪術廻戦読んでて思うけど、読みやすいよね」と最近のジャンプ漫画について言及。「私この前ONE PIECE読んだんだけどさ。なんなんだろうな~。もう漫画の中がいっぱいいっぱいなんだ」「いろんな人がいて、これはこの人が喋っててあれはこの人で~みたいな、なんか、キャラを覚えるのが大変で、いっぱいいっぱい」との苦労を明かしていた。

一般的には漫画を書く上で、書き込みすぎることはNGだとされている。というのも書き込んだ分だけ情報量が増え、そこに視線をとらわれてしまうため。読みやすい漫画を作るには、適切に余白を作って読者の視線を誘導することが重要だ。

「ONE PIECE」も連載初期にはコマの中を空白が占める部分が大きかったが、現在はその割合が格段に減っている。とはいえ尾田栄一郎ほどのベテラン作家が、初歩的なテクニックを失念しているわけではないだろう。

尾田はかつて、師匠である『ジャングルの王者ターちゃん』の作者・徳弘正也から「書き込みは伝わるんだぞ」という言葉を授かり、大きな影響を受けたという。また対談などで、たびたび背景などの書き込みにこだわっていることを明かしている。つまり、たしかな信念をもって、書き込みを増やしているのだと考えるべきだ。

そもそも「読みにくさ」は悪なのか?

恐らく尾田は、「ONE PIECE」の連載途中から、あえて読みにくい漫画を作る方向に舵を切った。そこにはどんな理由があるのだろうか。

物語の初期とそれ以降で異なるのは、登場人物の数が飛躍的に増えたということだ。そもそも「ONE PIECE」はモブキャラが極端に少ない作風。エピソードが切り替わるたびに数多くのキャラが登場し、それぞれが魅力的なドラマを背負っている。ルフィをはじめとした「麦わらの海賊団」が活躍して一件落着…というシンプルな話ではないのだ。

だが漫画を作る上で、1本のメインストーリーを軸にすることは避けられない。そのためルフィたちの活躍を描くメインストーリーと共に、さまざまなキャラたちのドラマを同時進行する必要がある。そのために必要となったのが、あえて書き込みを増やすというテクニックだ。読者は普通に物語を追った後、書き込みをじっくり読み込むことでサブキャラたちの抱える〝もう1つの物語〟に触れることができる。

「ONE PIECE」の人気が今にいたるまで衰えないのは、「考察」という要素が大きい。読者が自分から作品を読み解く余地があるため、消費されて一瞬で忘れられていくだけの作品では終わらないのだろう。

『HUNTER×HUNTER』や『DEATH NOTE』なども情報量が多く読みにくいが、間違いなく面白いのは多くの人が知るところ。いずれも考察しがいのある作品であり、長きにわたって熱狂的な支持を受けている。作品の読みやすさが必ずしも正義ではない、ということを忘れずにいたいものだ。

文=「まいじつエンタ」編集部
写真=まいじつエンタ
■『ONE PIECE』98巻(尾田栄一郎/集英社)

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