ジャンプの「UKロック特集」がクソすぎる! 商業に踊らされるロック脳の悲劇

ジャンプの「UKロック特集」がクソすぎる! 商業に踊らされるロック脳の悲劇

ジャンプの「UKロック特集」がクソすぎる! 商業に踊らされるロック脳の悲劇 (C)PIXTA

8月23日に発売された『週刊少年ジャンプ』38号の雑誌内企画にて、「UKロック」を紹介するコーナーが掲載された。一見本格的に見えるコラムが少年誌に載ったことで、一部の音楽ファンは歓喜しているようだが…。

今回話題を呼んだのは、「ジャンプ」巻末に掲載された『UKロックのすすめ』と題した企画。ネオヴィジュアル系バンド『Plastic Tree』のボーカル・有村竜太朗が特別ゲストを務め、「UKロック」の魅力などを紹介していった。

さらに後半のページでは、有村がいくつかのバンドやアルバムをレコメンドするコーナーも。その中では『Oasis』の『(What’s the Story) Morning Glory?』や『The Smiths』の『The Queen Is Dead』といった歴史的名盤が、コメント付きで取り上げられている。

少年漫画誌としては意外な内容に、「UKロック」好きの読者たちは大盛り上がり。SNS上では《今週の少年ジャンプのUKロック企画は良かったです》《90年代のUKロック特集が載ってて驚き。まさかシューゲイザーというワードをここで目にする事になるとは…》《ジャンプ巻末のUKロックがどうのでThe SmithsとThe Cureに言及しててめちゃくちゃ興奮しました》《ジャンプでUKロックを学べるとは思わないじゃん、不意打ちくらった好き》《ちょうどUKロックにハマっているのでタイムリーで嬉しい。ありがたく参考に色々聴いてみよう》《高校生のころUKロックよく聴いてたなぁ〜。最近Spotifyで思い出したかのようにOasisやBlur、Radiohead聴いているので、今週のジャンプの竜太朗さんの記事は個人的にタイムリーな話題です》といった反響が飛び交っていた。

商業的レッテルに過ぎない「UKロック」

大きな注目を集めた「UKロックのすすめ」だが、その特集内容には疑問を抱いてしまう点も多い。コーナーの中で紹介されたのは、〝古いバンド〟として『The Beatles』『The Police』『Sex Pistols』。イギリスで90年代半ばに巻き起こった〝Britpop〟ムーブメントから「Oasis」『Blur』『Radiohead』『Munsun』『Placebo』『Ash』といったほぼ懐かしいバンドの名前だ。

そして名盤紹介として登場しているのは、上記の「Oasis」「The Smiths」の2枚以外に、『U2』の『The Joshua Tree』、『The Cure』の『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』、『My Bloody Valentine』の『Loveless』、『The Stone Roses』のセルフタイトルアルバム、「Radiohead」の『OK Computer』、『Suede』のセルフタイトルアルバムといった80~90年代から8枚。

もちろん、どのバンドも音楽的には素晴らしく、チョイスは無難すぎるが、初心者向けの優秀なセレクトと言っていいだろう。しかし〝UKロック〟という言葉で括ることに対しては、疑問を抱かざるを得ない。

「Oasis」や「The Stone Roses」はイギリス・マンチェスター発のバンドだが、その一方でアイルランドのバンドである「U2」や「My Bloody Valentine」も同列に語られていた。もちろん、初期の『The Beatles』がアメリカの50年代のロックンロール(ロカビリー)に影響を受けているのは、音楽好きなら誰もが知っていることだろう。そのほか『Sex Pistols』も、アメリカのニューヨークパンクシーンに影響を濃く受けているなど、挙げたらキリがないが、音楽的なシグネチャーがない音楽を〝イギリスの音〟と語るのはいかがなものなのだろうか。

また〝Britpop〟ムーブメントは、当時イギリスで政権交代を果たしたトニー・ブレア率いる労働党が、ミュージシャンを木偶にして政治利用したことでも有名。ロッカー(ロックンローラーではなく)が国に飼い殺されるという悲劇は、いわゆるロック好きが一番嫌いそうな悲劇だと思うのだが…。

なぜ「UKロック」という言葉が広がったのか?

UKロックという言葉に踊らされているリスナーは、Britpopの悲劇よろしく、システムに踊らされているだけだ。しかし、ここに並んだバンドは日本において〝UKロック〟の系譜で語られているバンドに間違いない。ではなぜリスナーはUKロックという言葉をありがたがるのだろうか?  それは能動的に音楽を聴けないリスナーのため、音楽雑誌『rockin’on』が「UKロック」という括りを広め、日本のリスナーがそれを2021年の現代まで聖典のごとくありがたがったからかもしれない。

歴史的な事実を述べれば、「Radiohead」がブレークしたのは、1992年のヒット曲『Creep』。最初にヒットしたのはイスラエルで、その後アメリカでヒット、その後にイギリスへ逆輸入されたと言われている。そして彼らのアルバム「OK Computer」は、Britpopムーブメントに冷や水を浴びせた1枚でもある。

BritpopひいてはUKロックの代表格である「Oasis」はイギリス以外でヒットしておらず、〝イギリスの『Mr.Children』〟ともいえる存在だ(だからこそJ-POPと同じくUKロックというジャンルで語られるのかもしれないが…)。一方で「The Cure」や「Blur」は、音楽的なシグネチャーを変え、アメリカ進出を目指し、「The Police」と「The Cure」はアメリカでもブレークを果たす。そして言わずもがな「U2」は〝アイルランド〟の熱血バンドから、アメリカ進出を果たして世界一のバンドになった。

また「Ash」は当時高校生だった少年が組んだバンド。彼らの初期の代表曲は『Girl from Mars』。〝火星から来た少女〟というタイトルは、Britpopムーブメント全盛期の中で〝ここではないどこか〟の隠喩にほかならない。そして重要なのは「Ash」が北アイルランド出身のバンドということだ。

もちろん、とあるシーンを切りぬいて〝ムーブメント〟として語るのが間違いだとはいわない。むしろ90年代当時ならBritpopをUKロックといっても差し支えなかったかもしれない。しかし一番害悪なのが、今もなお当時のムーブメントを〝UKロック〟として発信するメディアと、それを何も考えずに受け取るリスナーだろう。今は亡き「Oasis」を表紙にした雑誌が書店に並ぶことは、ネクロフィリアにほかならない。

今の時代もいわゆるギターロックしか聴かない人々は、90%以上の確率でロキノン脳またはオールドミュージックファン、ひいては〝音楽的老害〟といっていいだろう。当時の音楽だけを語り、「あの頃は~」「この音楽は~」と回顧していればいい。音楽の本質は自分のスペックに対して、溜飲を下げる道具では決してない。この意味が分からなければ〝UKロック〟という言葉をありがたがり、一生その音を享受していればいい。

2021年の私的80~90年代「UKロック」名盤8選

Radiohead『The Bends』
Massive Attack『Blue Lines』
Spice Girls『Spice』
Primal Scream『Screamadelica』
LFO『Frequencies』
Big Audio Dynamite『This Is Big Audio Dynamite』
Scritti Politti『Cupid & Psyche 85』
The La’s『Lost La’s 1984–1986:Breakloose』

文=大上賢一

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