
「なろう系=異世界転生」はもう古い?“追放モノ”が主流になった理由 (C)PIXTA
小説投稿サイト『小説家になろう』で人気のジャンルと言えば、やはり異世界転生モノ…という認識の人は、そろそろアップデートが必要かもしれない。実は同サイトの月間総合ランキングを見てみると、現在はほとんど異世界転生モノの作品はランクインしていないのだ。
異世界転生モノと取って代わって、数年前から「小説家になろう」を席巻しているのは、〝追放モノ〟と呼ばれるジャンル。物語の細かい設定などは作品によって違いがあるが、大筋は勇者パーティーなど権威のある集団で不遇な扱いを受けていた主人公が理不尽な理由で追放され、新天地で順風満帆な生活を送るというものだ。そして追放した側の勇者パーティーなどは、縁の下の力持ちだった主人公を追放したことで大体没落する…。
異世界転生モノとの大きな違いは、まずファンタジー的な世界観の中で物語が完結する「ハイ・ファンタジー」であること。このあたりの定義には諸説あるかもしれないが、従来の異世界転生モノは現実世界の延長線上としてファンタジーが描かれる「ロー・ファンタジー」。一昔前に流行った『ハリー・ポッター』シリーズもこの系統で、かつては「もうハイ・ファンタジーは流行らない」とすら言われていた。しかし現在なろう界隈においては、むしろ「ハイ・ファンタジー」が主流なのだ。
「追放モノ」がなろうで覇権を握った理由
「小説家になろう」を追放モノが席巻したのはここ2~3年ほどの出来事だが、なぜここまで流行ったのだろうか。その理由の1つとして、よくネット上では「ブラック企業みたいな社会問題が反映された結果」といった主旨の指摘を見かける。つまり追放する側の勇者パーティーなどが現実世界のブラック企業のメタファーとして描かれており、そこから抜け出してサクセスしたい。そして、願わくば自分を虐げてきたブラック企業は滅びてほしい…という人々の願望が、「追放モノ」ブームを巻き起こしたのだという。
また2016年ごろに「小説家になろう」界隈において、異世界転生モノ(または異世界転移モノ)に逆風が吹いたから、という説もよく挙げられている。たとえばこの年には「文学フリマ」と「小説家になろう」のコラボ企画として『文学フリマ短編小説賞』が開催されたのだが、応募要項には『「異世界転生」、「異世界転移」の要素なし』という条件が。また「小説家になろう」内のジャンル再編成が行われたのもこの年で、異世界転生・転移の要素を含む作品は独立された別ランキングで集計されることとなった。実質的な異世界転生モノ隔離政策の逃げ道として、追放モノが数多く書かれるようになったらしい。
かくして「小説家になろう」のランキングは「追放モノ」で埋め尽くされるようになったのだが、ここ最近はまた新たな流れが来ている模様。というのも2021年11月現在の月間総合ランキングを見てみると、『メイドなら当然です。~地味仕事をすべて引き受けていた万能メイドさん、濡れ衣を着せられたので旅に出ることにしました』といった、どちらかと言えば女性向けの作品が上位に。主な読者層もブラック企業勤務でくたびれたおじさんたちから、女性層に移り変わっている印象だ。
もしかしたら『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった』に代表される悪役令嬢モノの人気を、作家たちが取り込んだ結果なのかもしれない。今後なろう系小説ではどのようなジャンルが流行るのか。個人的には雑な設定のゆるいSFが来てもおかしくないと思うのだが、果たして…。
文=大上賢一
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