百合オタクが同性愛差別!?『やが君』の政治的“悪用”に作者が猛反論

百合オタクが同性愛差別!?『やが君』の政治的“悪用”に作者が猛反論

百合オタクが同性愛差別!?『やが君』の政治的“悪用”に作者が猛反論 (C)PIXTA

大手企業による「LGBTQ+フレンドリー」制度の導入や、同性愛を公言するタレントの登場などによって、LGBTQへの社会的理解は世界中でますます広がりを見せている。漫画やアニメでも同性愛を題材とした作品は珍しくなくなった現代だが、ここにきて、いわゆる“百合オタク”の倫理観が問われているようだ。

女性同士の恋愛はこそこそやるべき?

そもそもの発端となったのは、『news23』(TBS系)で報道された「同性婚の賛否」を問うアンケート。関連ツイッターにて、同性婚に賛成する意見が約6割を占めていたことが紹介されたのだが、それを見た“反同性婚”の思想をもった人々が猛反発したようだ。

同性婚の導入を批判しているのは、政治系のアカウントばかりではない。一部のオタクは、アニメ化もされた人気百合漫画『やがて君になる』を引き合いに出して、持論を展開。同作においてレズビアンの主人公たちが同性愛の権利を主張せず、タブーな恋愛をひっそり楽しんでいたという解釈を語っていた。

しかしそんなツイートが、「やがて君になる」の作者である仲谷鳰の目に入った模様。自作が同性愛差別のために都合よく援用されたことを許せなかったようで、《自分の漫画が差別的な主張に利用されているところを見かけてしまってすごく嫌なので言っておくけど、私は早く同性婚が法制化されてほしいと思ってるよ》と断言している。

当然「やがて君になる」は差別的な内容ではなく、同性愛をめぐる真摯な描写が評価されてきた。なぜそんな同作のファンが、同性愛差別に加担してしまうのか、不思議に思う人もいるかもしれない。しかし百合漫画のファンは、必ずしもLGBTQへの理解が進んでいるとは言えないのが実情だ。

創作と現実の間に広がった大きな溝

なぜ百合漫画のファンから、同性婚に否定的な人が生まれるのか。それは読者によって、「百合」というジャンルに求めている要素が大きく異なるからだろう。以前から、同性愛を“禁断の恋”として描くことを望む層がいることは指摘されてきた。世間に禁じられているからこそ、その恋は美しい…といった理屈だ。

もちろん一枚岩ではないだろうが、彼らの中には現実における法整備に消極的な層も存在する。今回の一件で明らかになったように…。

しかしここ数年、LGBTQの権利をめぐる議論はますますデリケートになりつつある。つい先日も、自民党の国会議員による「神道政治連盟国会議員懇談会」で配布された冊子に、同性愛が「精神の障害であり、治療すべき対象」という内容が記されていたことが問題になった。

その他にも自民党の井上義行氏は6月に行われた出陣式において、昨今の同性愛支持の風潮を受け「家族ができずに、子どもたちは日本を引き継いでいけるのか?」という旨の発言を繰り出した。同性愛コミュニティから猛烈な批判を受けたものの、参議院選挙にて当選を果たしている。

そんな緊迫した状況の中で、百合を好むオタクたちはどんな決断を下すのか。「フィクションと現実を混同するな」といったお題目では済まない“現実との向き合い方”が問われている。

文=富岳良

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