『ラブひな』や『魔法先生ネギま!』などの作者として知られる赤松健が、先日行われた参議院議員選挙にて、全政党の比例候補者中トップの票を集めて当選。オタクを味方につける戦略が功を奏したようだが、選挙活動における“キャラクターの政治利用”が議論を呼んでいる。
「魔法先生ネギま!」が選挙カーに!
赤松は『日本漫画家協会』の常務理事や、『表現の自由を守る会』の最高顧問など、さまざまな肩書きを持つ漫画家。今回の参議院選挙で自民党の比例から立候補した彼は、一貫してクリエイターの“表現の自由”を訴え、約53万票もの票を集めて当選した。
そんな赤松の選挙活動は、自身の著作物の人気をフル活用した独特なものだった。たとえば彼が乗った選挙カーには、「ラブひな」や「ネギま」といった作品のキャラクターのイラストが掲載されていた。
また自身のツイッターでは、「ラブひな」に登場する青山素子などのイラストで、投票を呼びかける漫画を投稿していた。直接的に政治的なメッセージを語らせているわけではないが、ほとんどのツイートに「赤松健」への投票を訴えかける文面が。選挙活動の一環としてキャラクターを持ち出しているので、一種の“政治利用”と感じる人もいたようだ。
【拡散希望】すでに期日前投票が始まっています!全国比例は、日本全国誰でも投票できます。必ず個人名で「赤松健」と投票お願いします!
終わったら投票済証(不可能なら投票所)の写真と #全国比例は赤松健 を付けてツイートして下さい!
【赤松健の選挙特集ページ】https://t.co/IIL1b9KYkW pic.twitter.com/9cHtEyDmhY— 赤松 健 ⋈ C100(土)東シ54b (@KenAkamatsu) July 1, 2022
その他、多くの人気漫画家が応援したことも、赤松の人気を後押し。『はじめの一歩』の作者である森川ジョージは、《応援演説はしないという約束》だったとしながら、赤松の街宣車で挨拶をしたことをツイッター上で告白していた。
赤松健君の演説をボーっと見てたら声かけられた。
まさか街宣車の上に上げられると思わなかった。
応援演説はしないという約束なので「これは応援じゃない~」から始まる前代未聞の挨拶をしてしまった。
びっくりしたなあ、もう。 pic.twitter.com/ug4uUpOtmf— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) July 9, 2022
こうして“表現の自由”の旗印のもとで、多くのオタクたちの支持を集めたことが、選挙の勝因となったことは間違いないだろう。とはいえ、自作のキャラクターを政治利用したことについて、もやっとする人も少なくない。
純粋な作品のファンは複雑?
「ラブひな」や「ネギま」を使った選挙活動について、ネット上では《ラブひなを政治利用するのはなんだかなぁって思ってる》《赤松健氏が自キャラを政治利用するのに凄い違和感がある》《素子こんなキャラじゃないだろ》《成瀬川を政治利用した事は作者だろうが許さない》《おめでたいけどキャラクターの政治利用だけどうにかならんかったんか》といった声が。
以前から、漫画・アニメなどのキャラクターの政治利用はタブー視される傾向にあった。たとえば2019年には、故・高橋和希さんが『遊☆戯☆王』のキャラクターを通して、「独裁政権に未来は暗黒次元(ダークディメンション)!」、「ホント…日本て住みづらくなっちゃった…」と語らせ、炎上したことが有名だ。
一応、「遊戯王」の場合には作者の思想をキャラクターに語らせていたが、赤松の場合には選挙活動のPRにとどまっていた。しかしそれよりも、“政権批判”と“自民党公認候補”という立ち位置の違いだと考える人が多く、《遊戯王のときには大騒ぎしたのにね。野党憎しだから与党は何やっても批判しない》《自民党のために使うなら普通でOKということなのだろう》などと揶揄されている。
思えば、はるか昔に政治家・麻生太郎が『ローゼンメイデン』に接近したことから始まり、政治的にナイーブなオタクの動員は常々疑問視されてきた。オタクが票田になるとわかったことで、この問題は今後さらに前景化していきそうだ。
文=大上賢一
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