『ONE PIECE』ルフィがなろう系の主人公に…ジャンプが貫いてきた“運命”至上主義

『ONE PIECE』ルフィがなろう系の主人公に…ジャンプが貫いてきた“運命”至上主義

『ONE PIECE』103巻(尾田栄一郎/集英社)

海賊王を目指す青年、モンキー・D・ルフィの冒険を描いてきた『ONE PIECE』の物語。連載が始まった当初は彼の成り上がりを見守るストーリーだったが、最近では後付け設定の追加によって、“なろう化”したという見方もあるようだ。

なろう系主人公・ルフィ

あらためて同作の展開を振り返ってみると、ルフィのサクセスストーリーとしての側面が強いと言える。イーストブルーにある「フーシャ村」という田舎出身の少年が、ある日「ゴムゴムの実」の能力を獲得。強敵との戦いの中で徐々にパワーアップを果たしていき、海賊としての名声を高めていく…。

いわゆる“友情・努力・勝利”の法則に当てはまる部分が多く、『週刊少年ジャンプ』の王道を行く漫画として広く人気を得ている。

しかし連載が長期化していくにつれ、ルフィをめぐる設定の追加が目立つように。まず大きな話題を呼んだのは、彼が“神の天敵”こと「Dの一族」であるという設定だった。

さらにその出自についても、たんなる田舎モノの子どもではなかったことが判明。父は革命軍のボス、祖父は海軍の英雄と、盛りすぎなくらいに血統の強さがアピールされている。もはや強くなることを運命付けられていたような、恵まれた環境だ。

ちなみにジャンプ漫画に登場する主人公は、基本的に“最強”の血統に恵まれていることが多い。『BLEACH』の黒崎一護や『NARUTO -ナルト-』のうずまきナルトなど、例を挙げればきりがないほどだ。「ジャンプ」の王たるルフィが血統主義に染まるのも、当然なのかもしれない。

とはいえ、本人や親族の裏設定程度であれば、漫画の世界では珍しいことではない。むしろ問題は、その先にあると言えるだろう。

ルフィは“神の領域”へ…

具体的に言えば、つい最近完結したばかりの「ワノ国編」にて大きな変化が。原作の1044話にて、ルフィが食べた「ゴムゴムの実」の“正体”が明らかになったのだ。

身体がゴムのように伸縮する能力かと思いきや、本当の能力は「ヒトヒトの実」幻獣種モデル“ニカ”。この実は世界政府がひた隠しにしてきた伝説級の代物で、その能力を覚醒させたことで、ルフィは歴史上の危険人物と見なされるようになった。

読者は大いに盛り上がっているものの、偶然手に入れた能力が世界から恐れられる伝説の力だった…という展開は、その部分だけ見るといささか都合がいいような印象も受ける。

さらに、現在公開されている劇場版最新作『ONE PIECE FILM RED』に登場する世界の歌姫・ウタも、ルフィと幼馴染みという設定。あらゆる環境が味方する“未来の海賊王”に対して、ネット上では《完全になろう系の主人公じゃん…》《1話から最強だったわけじゃないけど、ここまでくるとなろう系と変わらんな》《主人公がチート能力貰って無双するとかまさになろう系主人公》といった指摘が上がっている。

中には、《今でもニカはいらなかったと思ってる》と、「ニカ」をめぐる描写に不満をもらす声も。たしかに努力の積み重ねによって強くなる主人公像を求める読者にとっては、強さを裏付けるような設定の開示は受け入れがたいだろう。

ルフィは努力で強くなったのか、それとも強くなる“運命”だったのか…。読者が納得いく着地点になることを期待したい。

文=大獄貴司
写真=まいじつエンタ