『すずめの戸締まり』は世界を狙える? 現代人に刺さった『ドライブ・マイ・カー』との共通点

『すずめの戸締まり』は世界を狙える? 現代人に刺さった『ドライブ・マイ・カー』との共通点

『すずめの戸締まり』は世界を狙える? 現代人に刺さった『ドライブ・マイ・カー』との共通点 (C)PIXTA

アニメ映画として大ヒット中の『すずめの戸締まり』と、カンヌ国際映画祭で全四冠という偉業を成し遂げた実写映画『ドライブ・マイ・カー』。実はこの2作品には、いくつかの共通点が存在している。そこから現代人ならではの“願い”を読み取ることもできるだろう。

「旅」をめぐる2つの物語

11月11日に公開された「すずめの戸締まり」は、『君の名は。』や『天気の子』の新海誠監督による最新作。日本各地の廃墟を舞台として、災いをもたらす“扉”を閉めていく少女・すずめの物語が描かれている。

同作はこれまでの新海作品とは違って、ロードムービー的な要素が含まれているのが特徴。愛媛・大分・東京・兵庫・宮城など、実在する日本の土地をめぐるストーリーを展開する。

かつ、その風景は色彩豊かに描かれ、見るだけで国内旅行気分が味わえるようなクオリティだ。

その一方で「ドライブ・マイ・カー」は、濱口竜介監督が村上春樹の短編小説を映画化した作品。舞台俳優であり演出家の家福が、仕事で訪れた広島で寡黙なドライバー・みさきと出会い、今は亡き妻・音の謎に向き合う…といった筋書きだ。

そして同作もまた、ロードムービー的な要素をもつ作品。「車」が重要な舞台装置となっているのだが、ロケ地である広島・北海道・韓国などの風景を、魅力的に映し出していた。

つまりはいずれの作品も「旅」という共通項があり、その上で特定の土地を“物語化”する意志が感じられる。しかしなぜ現代日本屈指の映像作家2人が、ほぼ同時期に同じようなテーマを見出し、それが高く評価されているのだろうか。

コロナ禍で失われたもの

当たり前のように口にしがちだが、そもそも旅とは何なのか。

それはたとえば日常的な風景から離れ、この世ならざるものに向き合う行為と言えるだろう。「すずめの戸締まり」は災害の可能性、「ドライブ・マイ・カー」は亡き妻の秘密に触れる物語であり、まさにそうした意味での旅が描かれている。

また、両作品が観客を惹きつける理由もまた、旅に関わっている。

日常生活においては、2年以上にわたって続くコロナ禍の中で、物理的な旅が難しくなっていた。2つの作品で次々と映し出される光景は、そんな喪失感を穴埋めしてくれるような印象を与える。

カメラを通して日本各地の風景を再発見すること、そして現実で旅の記憶を失ってしまった観客たちのように、登場人物が“喪失”と向き合うこと…。

それこそが、両作品が現代のロードムービーとして胸を打つ理由ではないだろうか。

そう考えると「ドライブ・マイ・カー」が当初韓国の釜山で撮影される予定だったが、コロナ禍の影響で広島にロケ地が変更されたというエピソードも、どこか象徴的かもしれない。

旅をめぐる作品の波といえば、漫画の世界でも同じようなシンクロが起きていた。今年9月に『週刊少年ジャンプ』で始まった『ギンカとリューナ』というファンタジー漫画は、ロードムービー的な展開となっており、それも「失ったものを取り戻す旅」だ。

コロナ禍で失われたものはとてつもなく大きいが、だからこそ生まれる表現もある。今人々が何を求めているのか、その答えを知るためにこそ作品に触れてみてほしい。

文=ゴタシノブ

【画像】

LustreArt / PIXTA