
『僕のヒーローアカデミア』37巻(堀越耕平/集英社)
現在の『週刊少年ジャンプ』を代表する看板漫画の一角でありながら、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』ほどブレイクしていない『僕のヒーローアカデミア』が国民的漫画になれなかった理由は、女性キャラクターを“男の世界”から排除する古いジャンプ的価値観にあるのではないだろうか。
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“女の子”扱いされるヒーローたち
「ジャンプ」本誌では現在、緑谷出久をはじめとするヒーロー集団がヴィラン軍団と最終決戦を繰り広げている。麗日お茶子とトガヒミコの戦いも、本格的に動き出しそうな兆しを見せている。
なお、この戦いは「恋バナ」というストーリー性を帯びたものとなりそうだ。2人はいずれも出久に恋をしたことが共通しており、以前から「恋バナ」を通して対話する可能性が示唆されていた。最終決戦で、いよいよその布石が回収されるのかもしれない。
しかし作品を代表する女性キャラクター、お茶子とトガの戦いが「恋バナ」の文脈で処理されることには違和感を拭えない。それは彼女たちがどこまでも“女の子”として描かれており、男性のヒーローやヴィランとは一線を画した扱いに見えるからだろう。
これはそもそも、「ヒロアカ」の世界観自体にひそんでいた問題だ。同作で描かれるヒーローのロールモデルは、筋骨隆々で弱きを助けることをモットーとしたオールマイト。あくまで男性社会の産物であり、女性キャラの活躍は控えめとなっている。
トッププロヒーローとして活躍するのはミルコくらいで、彼女にしても最終決戦ではあまりいい見せ場を与えられていない。
さらに印象的なのが、最終決戦における1-Aクラスの扱いだ。出久のほかに目立った活躍をするのは爆豪勝己や轟焦凍といった男性キャラばかりで、ほとんどの女性キャラたちはサポートメンバーに回り、影が薄くなっている。
どこまで行ってもヒーローの戦場は「男の世界」であり、女性キャラは「女の子」として一線を引かれているような印象だ。
『呪術廻戦』が進めた“女性”の役割破壊
もちろん、作中には例外となるキャラクターも存在する。スターアンドストライプは、女性でありながらアメリカのNo.1ヒーローとして君臨するキャラクターであり、ステレオタイプな女の子の扱いではない。しかし、その代わりに彼女は“母性”を背負わされており、自己犠牲によって世界を救おうとした。
また、オールマイトの師匠である志村菜奈も、キャラクターとしての強さではなく、良き母親だったという役割が強調されている。つまり同作において、女性ヒーローはどこまでいっても女の子、もしくは母親として描かれてしまうのだ。
そんな世界観と対称的なのが、同じくジャンプ漫画である芥見下々の『呪術廻戦』だ。同作に登場する禪院真希は、旧家の男尊女卑的な習わしを破壊することを運命付けられていた。
またヒロインである釘崎野薔薇も田舎の陰湿さを嫌い、外の世界を望んで呪術師になった経緯をもつ。いずれも自身を「女性」という役割に押し込むシステムと戦う姿勢を見せており、いい意味で“少年漫画らしくない”キャラクター像となっている。
「呪術廻戦」が広い読者から支持されているのは、そうした先進的な価値観が背景にあるからかもしれない。
このまま「ヒロアカ」は女性キャラの本質的なテーマを掘り下げず、完結を迎えるのだろうか。お茶子とトガの戦いが、新たな局面を迎えることに期待したい。
文=大上賢一
写真=まいじつエンタ
■『僕のヒーローアカデミア』36巻(堀越耕平/集英社)