なぜ『SPY×FAMILY』は『クレヨンしんちゃん』になれないのか…“子ども向け”ではないヨルの設定に…

なぜ『SPY×FAMILY』は『クレヨンしんちゃん』になれないのか…“子ども向け”ではないヨルの設定に物議

なぜ『SPY×FAMILY』は『クレヨンしんちゃん』になれないのか…“子ども向け”ではないヨルの設定に物議 (C)PIXTA

『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』の上映が12月22日から始まり、公開3日で興行収入が12億円を突破するほど大ヒットを記録している。成功の理由は、ファミリー層でも安心して楽しめる子ども向けシナリオにあるようだが、この路線に《無理がある》と感じる人も少なくない。

老若男女が楽しめるホームコメディ

『SPY×FAMILY CODE:White』は、遠藤達哉が『少年ジャンプ+』で連載しているコメディ漫画を原作としたアニメ映画。世界の命運をかけたフォージャー家の極秘ミッションが、完全オリジナルストーリーで描かれている。

ロイドはオペレーション〈梟〉の任務を継続するため、フォージャー家で家族旅行を行うことに。しかしアーニャが怪しげなトランクケースを発見したことから、さまざまなハプニングに巻き込まれていく──。

原作『SPY×FAMILY』は冷戦下の殺し屋たちというハードな設定があったり、暗殺シーンがあったりと、必ずしも子ども向けの作風ではない。しかし劇場版ではファミリー層を狙うためか、ホームコメディに寄せた内容に。全体的にコメディ要素が強いシナリオで、とくにアーニャ関連では子ども向けのギャグが満載となっていた。

そのため、ファミリー向けコメディアニメの代名詞である劇場版『クレヨンしんちゃん』を連想する人も多く、1990年代後半の名作『暗黒タマタマ大追跡』や『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』などと比較されている。

国民的アニメになれない理由

「制作陣としては、『SPY×FAMILY』の設定を使い、『クレヨンしんちゃん』のような国民的アニメの後釜を狙う意図があったのではないでしょうか。興行成績を見るに、その戦略は見事成功を収めています。しかし“クレしん路線”には致命的な不安要素も。原作の設定が重すぎるため、子ども向けにするのは無理があると言われているんです。

とりわけヨルは、表はアーニャの母親、裏では躊躇なく人を手にかける殺し屋という設定で、以前から《幸せな家庭を持つ資格はあるのか》と議論されてきました。ホームコメディとして売り出していくなら、そうした設定を“なかったこと”にする必要があるでしょう」(アニメライター)

とはいえ、『クレヨンしんちゃん』も、原作序盤はブラックな要素が強かったものの、後に“毒抜き”される形で、国民的アニメの座に上り詰めた。『SPY×FAMILY』も原作から離れてオリジナルストーリーでアニメ化できれば、同じような成功を期待できるかもしれないが…。

「原作者の遠藤達哉は、初連載の『TISTA』を見ても分かるように、残酷な世界観を描きがちな作家。最近の『SPY×FAMILY』でも、コメディ路線どころか、むしろハードな展開が多くなっており、“心のTISTA”を解放しつつあると言われているほどです」(同・ライター)

子ども向けのギャグを詰め込んだアニメ版と、大人の読者を意識して作られている原作。この路線の違いをいかにして解消していくのか…。嵐を呼ぶ偽装家族の今後に注目したい。

文=「まいじつエンタ」編集部

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