安倍元首相の護衛はなぜ失敗した?『HUNTER×HUNTER』が描く要人警護の心得

安倍元首相の護衛はなぜ失敗した?『HUNTER×HUNTER』が描く要人警護の心得

『HUNTER×HUNTER』36巻(冨樫義博/集英社)

世界中に大きな衝撃を与えた、安倍晋三元首相の銃撃事件。容疑者が至近距離から発砲していたことから、警護にあたっていたSPの働きを疑問視する声も上がっている。そんな中、冨樫義博による大人気漫画『HUNTER×HUNTER』を“お手本”として称える漫画好きも少なくないという。

「ヨークシン編」ネオンの警護体制が完璧

「HUNTER×HUNTER」を読んだことのある人には分かるだろうが、同作では至るところで“要人警護”のエピソードが登場する。

たとえば真っ先に思い出すのが、単行本の8巻から13巻にかけて展開された「ヨークシン編」。そこではクラピカが「ノストラード組」というマフィアに加わり、組長の娘であるネオンの警護にあたるのだった。

そして第70話『ヨークシンへ』では、警護団に加わったクラピカが、リーダーであるダルツォルネから要人警護の“本質”を叩き込まれるシーンが。クラピカは最初、ネオンを狙う人物の心当たりを問いかける。その答えに応じて対応策を練ることで、護衛がより安全になると主張するのだ。

しかしダルツォルネはその質問を一笑に付す。いつ誰がどんな方法で襲ってきても対処するべきだとして、「敵の姿を勝手に想像するな」「近づく者全てが敵だ」と返すのだった。

実際にクラピカが加入する以前、偽情報から敵の姿を“想像”したことで、チームやネオンを危険にさらした護衛が存在したそう。その人物は処分され、反省を促すように壁のオブジェと化していた──。

要人警護に必要なもの

安倍元首相の銃撃事件が起きた翌日、7月9日に奈良県警トップの本部長が記者会見を敢行。そこで「警護警備に問題点があったことは否定できない」として、当日の警護体制が十全ではなかったことを認めている。

有識者などがよく指摘するのは、襲撃者として刃物を持った人間が想定されており、銃撃の可能性が考慮されていなかったこと。言い換えれば、敵の姿をあらかじめ想像するという過ちがあった。

また、今回の事件では1発目の発砲から約3秒のタイムラグがあり、2発目の発砲が致命傷を与えている。ここから思い出すのは、第73話『9月1日(1)』で描かれたワンシーンだ。いきなり発砲を始めた「幻影旅団」のフランクリンに対して、警護団のシャッチモーノ=トチーノは、自身の念能力“縁の下の11人”で命がけの防御を行っていた。このあたりはあくまで漫画の世界…とはいえ、要人警護かくあるべしという心意気を感じる描写でもある。

他にも作中では、「キメラアント編」にて王直属の護衛軍が護衛の何たるかを見せつけたり、今まさに進行中の王位継承戦でもクラピカが王妃の警護を担当。ネット上では、《SPがハンターを読んでいれば…》《漫画アニメに負ける現実の警察》とも揶揄されていた。

いつだって「HUNTER×HUNTER」は、人生に役立つことをいくつも教えてくれる。現実で役立つかどうかはともかくとして…。

文=「まいじつエンタ」編集部
写真=まいじつエンタ