『君たちはどう生きるか』は宮崎駿の自伝? 巨匠最後の境地は“エヴァ”だった

『君たちはどう生きるか』は宮崎駿の自伝? 巨匠最後の境地は“エヴァ”だった

『君たちはどう生きるか』は宮崎駿の自伝? 巨匠最後の境地は“エヴァ”だった (C)PIXTA

スタジオジブリによる最新アニメ映画『君たちはどう生きるか』が、7月14日に公開された。難解なストーリーによって賛否両論の声が相次いでいるが、その内容は宮崎駿監督による“自分語り”として解釈できそうだ。

※『君たちはどう生きるか』の内容に触れています

同作は、牧眞人という少年を主人公としたストーリー。東京大空襲によって母を亡くし、心に傷を負った眞人は、父と共に東京を離れることに。疎開先に待っていたのは、母の妹であり、父の再婚相手である夏子だった。

そこで眞人は、人間の言葉をしゃべる不気味なアオサギと出会い、かつて大叔父が建てたという塔へと誘われる。塔の中には現実とはまったく違う様相の異世界が広がっており、母と夏子を見つけるための冒険が始まるのだった…。

宮崎監督は今回、夢と現実が混在するような描写を積極的に取り入れており、とくに塔の中では不条理な出来事が次々と巻き起こる。これまでのジブリ作品とは違って、抽象的なテーマを扱っていることもあり、多くの観客が困惑を隠せないようだ。

「一見難解な作品ですが、ジブリファンの間では『分かりやすかった』という感想もゼロではありません。というのも、実は同作は宮崎監督のことをどれだけ知っているかで、話の分かりやすさが変わるからです。主人公の眞人は、明らかに宮崎監督自身が投影されたキャラクター。その境遇に似ている部分が多くありますからね」(ジブリマニア)

眞人の父親は戦闘機工場の経営者という設定だが、宮崎監督の父も戦闘機の部品製造に携わっていた。また、宮崎監督の母は難病で長きにわたる療養生活を送っていたが、つわりに苦しむ夏子の描写にその面影を感じられる。

「『君たちはどう生きるか』は全編通して母との関係が大きなテーマとなっており、母と一緒にいることができない孤独感や、母の愛情への渇望がほとばしっています。宮崎作品は少女が主人公のパターンが多いですが、これは宮崎監督が“少女の姿をした母親的な存在”に惹かれてきたため。同作ではその願望がかなりストレートに表現されており、少女の姿をした母親から“あなたを生みたい”と肯定してもらうシーンすら登場します」(同)

「父」としての宮崎駿

母をめぐる物語のほか、『君たちはどう生きるか』では同時に「創作」というテーマも軸となっている。

作中に登場する“大叔父さん”は、外界から閉ざされた塔の主として君臨する存在だ。塔の世界を管理する行為は、「積み木」を積み上げることとして表現されており、老齢を迎えた自分の後継者を探し求めているのだった。

「大叔父さんの姿に、宮崎監督の影を感じないのは無理があるでしょう。前々から宮崎監督は現実社会と相反するクリエイターの業をテーマとしており、その後継者としてさまざまな人物の名前が挙がっていました。

しかし現実には後継者探しは失敗に終わり、スタジオジブリは『思い出のマーニー』にて一度制作部門が解散することに。この流れは大叔父さんをめぐる展開とほぼ同じと言えます。

そして映画が最終的に辿り着くのは、『創作の世界に閉じこもらずに現実に帰る』といったメッセージ性のある結末。宮崎監督があれだけとやかく言っていた弟子・庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』と同じような結論に至ったのは、皮肉と言うしかありません。

また、『君たちはどう生きるか』というタイトルは、宮崎監督が名作と称賛してきた巨匠・黒澤明の映画『生きる』を連想させます。ストーリーが分かりやすい娯楽映画に徹してきたキャリアの最後に、“本当の映画”を作りたいという本音が出てきたのかもしれません」(同)

宮崎監督が引退宣言を撤回してまで作り上げた、人生をかけた集大成。世間の人々は同作をどう受け止めるのだろうか。

文=「まいじつエンタ」編集部

【画像】

master1305 / PIXTA