一時期作品が乱立した「異世界転生」ジャンルの作品は、いまや市民権を獲得しているといえるだろう。なんとか独自性を出すために試行錯誤が繰り返されており、最近では「論破王ひろゆきが異世界転生」といった内容の作品が誕生。しかも“2作品同時展開”という珍事が発生したようだ。
ひろゆき無双と化した漫画市場
まず世間を騒がせたのは、7月8日から『となりのヤングジャンプ』にて連載が始まった『異世界ひろゆき』。巨大掲示板「2ちゃんねる」の創始者としてお馴染み、“ひろゆき”こと西村博之氏をチート系の主人公として描いた作品だ。原作・戸塚たくす、作画・西出ケンゴローという布陣で、監修はひろゆき本人が務めている。
となりのヤングジャンプ にて漫画『異世界ひろゆき』(原作:戸塚たくす 監修:ひろゆき)
本日から連載開始となりました よろしくお願いいたします第1話前編公開中、こちらから読めますhttps://t.co/7z2yeIOtkx pic.twitter.com/uKbyH9o25f
— 西出ケンゴロー (@garakuta_) July 8, 2022
そして7月13日に、『コミックフラッパー』の増刊として創刊された『コミックアルナ』でも、同じような漫画を掲載。そのタイトルは、『ひろゆき、異世界でも論破で無双します』だ。原作を高菜八期、漫画をはたしま卯月が担当しており、こちらも監修としてひろゆきの名前がクレジットされていた。
【雑誌情報】コミックアルナ第1号好評発売中!
『ひろゆき、異世界でも論破で無双します』センターカラーで登場!
あのひろゆきが異世界でも論破! 転移したひろゆきは、相手が人間であろうが魔物であろうが論破し、現世と変わらずマイペースで生きていく。 第1話はオークロード相手になにを話す!? pic.twitter.com/Ppblx0lUGf— コミックアルナ公式アカウント (@comic_alunna) July 13, 2022
いずれもタイトルから分かる通り、ひろゆきが異世界に行き、“論破”によって無双するストーリー展開。内容のシュールさはともかく、完全なネタ被りが生じてしまったことについて、《異世界ひろゆき別の作品でもやってなかった? ネタかぶりじゃん》《流石になんでもひろゆきに頼りすぎでは》《今頃どちらの作品のスタッフたちも頭抱えてるだろうな……》と困惑の声が広がっている。
「データ頼りのエンタメ」の行き先はいかに
YouTubeの切り抜き動画から始まり、現在では情報番組やバラエティーにも引っ張りだこのひろゆき。近年では出会い系の広告への出演や、自身の結婚生活を描いたルポ漫画まで出版されている。アングラな有名人だった数年前はまだしも、今は立派なインフルエンサーなので、人気にあやかった企画が出てくるのも当然だろう。
とはいえ、「異世界転生」というジャンル自体はいまや飽和気味。アイデアそのものの斬新さで売れる時代は過ぎ、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』などを筆頭に、クオリティーに重きを置いた作品がヒットする傾向にある。同ジャンルの作品が多すぎることもあり、消費者の目線がシビアなものになってきたのかもしれない。
だとすれば、出オチ感あふれる2つの作品が並んだことは、マイナスに働いてしまう可能性も。流行り物×流行り物の発想だけだと、安直に見えることは否めない。
せめてありがちな設定だけでなく、意外な観点から攻めていくようなアプローチがあれば、ヒットの可能性が上がるのではないだろうか。これも個人の感想だが…。
文=富岳良
【画像】
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