アニメ『チェンソーマン』は世界レベルだった! 北野武最新作『首』との共通点

アニメ『チェンソーマン』は世界レベルだった! 北野武最新作『首』との共通点

アニメ『チェンソーマン』は世界レベルだった! 北野武最新作『首』との共通点 (C)PIXTA

日本を代表する映画監督・北野武による最新作『首』が、第76回カンヌ国際映画祭の「カンヌ・プレミア」部門に出品された。上映時には約5分ものスタンディングオベーションが巻き起こり、“世界のキタノ”の名をふたたび知らしめた。

現在、そんな北野監督と並んで注目されているのが、新進気鋭のアニメーション監督・中山竜だ。

北野武が語った構図のこだわり

5月15日に都内で行われた「首」の完成報告会見では、北野監督が自身の作風について明かす場面があった。

北野監督はかつて故・大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』や『御法度』に出演した過去があるが、その際にカメラの構図について教わったようだ。

「大島渚さんの映画の時に散々言われたんですけど…アップを撮るのは相当下手な監督だってよく言われましたね」と思い出を振り返り、「大事なシーンは(カメラを)引くべき」「これだ!っていう風に寄って印象付けるのは下品ですってよく言われた」と語っていた。

実際に「首」でもカメラを引くことが意識されていたのだろう。同作に出演した歌舞伎役者・中村獅童は、完成した作品を見た際、北野監督ならではの「品格」を感じたことを打ち明けていた。

北野作品は、ストーリー以前に巧みなカメラワークやフレーミングを評価されることが多い。1990年の『3-4X10月』以来、撮影監督・柳島克己氏を右腕として作品を撮り続けてきたが、絵作りに関してはむしろ北野監督のこだわりが強く反映されている。

そうした北野作品の魂として、“引きの構図”という思想が息づいているのかもしれない。

アニメ界に現れた新たな才能

ところで引きの構図の使い手といえば、最近アニメファンの間では中山監督の名前がよく挙がっている。

中山監督は、昨年放送されたTVアニメ『チェンソーマン』にて監督デビュー。さまざまなインタビューの発言にて、同作ではあえてアニメ的な表現ではなく、実写映画的なアプローチをとったことが明かされていた。

その結果として、原作漫画ではアップで描かれていたシーンが、ぐっとカメラを引いて表現されるという改変が多発。これが原作ファンから不評を招き、署名サイト「change.org」では「アニメ『チェンソーマン』を新たな監督で作り直してください」というプロジェクトが立ち上げられ、「引きの画の多さによる迫力のなさ」などの問題点が指摘されている。

とはいえ、引きの構図自体は北野監督にも通じるこだわりだ。アニメファンの反応はともかく、実写映画好きの間でアニメ「チェンソーマン」が絶賛され、“世界のナカヤマ”となる世界線もあり得たのかもしれない。

ただ誤算だったのは、「チェンソーマン」と親和性の高い作品が、アート系の映画ではなく、B級映画だったことだろう。アニメ監督でいえば、岡本喜八作品に影響され、“寄りの構図”を多用している庵野秀明監督にこそふさわしい原作だった。

今後、原作つきではなくオリジナル作品によって中山監督が世界に羽ばたくことを期待したい。

文=大上賢一

【画像】

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