レジェンド漫画家の頭に水割りを…サンデー編集者たちのトンデモ逸話

レジェンド漫画家の頭に水割りを…サンデー編集者たちのトンデモ逸話

レジェンド漫画家の頭に水割りを…サンデー編集者たちのトンデモ逸話 (C)PIXTA

今でこそ品行方正なイメージだが、ひと昔前まで漫画編集者といえば、変わり者ばかりだった。とくに数多くの伝説を残してきたのが、かつての『週刊少年サンデー』編集者だ。今では考えられないトンデモな逸話に事欠かないという。

少女漫画家のレジェンドとの確執

「サンデー」の歴史上もっとも有名なのは、赤塚不二夫などを担当した敏腕編集者・T氏の逸話だろう。

かつてT氏と漫画家のあだち勉、『週刊少年マガジン』のI氏が3人で飲んだ時のこと。さまざまな書籍で紹介されているエピソードだが、T氏とI氏はあだち勉に少女漫画家の一条ゆかりを呼び出させたうえで、頭から水割りをかけたという。

一条は『有閑倶楽部』などのヒットでレジェンドの地位を確立した作家であり、当時すでに売れっ子だった。しかし少女漫画家ということで、T氏とI氏は同じ雑誌で仕事することはないと高を括っていたのかもしれない。

当然、一条はこの出来事を数十年経ってもしっかり記憶しているようだ。7月10日の『読売新聞』夕刊に掲載された取材記事では、この悔しさをバネに仕事に打ち込んだという当時の想いを明かしていた。

なお、T氏にはほかにもさまざまな逸話があり、創刊当時の『週刊少年ジャンプ』を“小汚い雑誌”と侮っていたことでも知られている。とはいえ、編集者としては類を見ないほどの功績を残しているため、確かな実力を持っていたことは間違いないだろう。

女性漫画家にペンネーム変更を指示

現在、『サンデーうぇぶり』で『幻狼潜戦』を連載中の女性漫画家・桜井亜都も、編集者との確執を告白したことがある。

2018年頃に自身のX(旧ツイッター)で明かしていた話だが、桜井は新人の頃に担当編集者から中性的なペンネームに変えるよう指示されたことがあるそう。

結果としてはペンネームを変更してよかったと言いつつも、当時「女が少年漫画描いてるなんて気持ち悪いでしょ?」と言われたことに大きな衝撃を受けたという。

この投稿はスクウェア・エニックスの『月刊少年ガンガン』で仕事をしていた頃のものだが、《前の出版社の話》と明かされていた。

ペンネームを変更したタイミングも違っているため、連載デビュー作『アーティスト アクロ』が掲載された「サンデー」での出来事と推測されている。

訴訟事件にまで発展したケースも

「サンデー」の歴史を語るうえで、2008年に『金色のガッシュ!!』の作者・雷句誠が起こした訴訟沙汰は外せないだろう。

雷句は同作の連載中から、編集者の態度の悪さや、写植ミスの多さなどに多大なストレスを抱えていた。そして、複数枚のカラー原稿を紛失されたことをキッカケに不満が爆発。漫画家の立場を守る意味も込めて、訴訟を決意したのだった。

陳述書には、「あまりにも編集者、出版社と言う物が漫画家を馬鹿にし始めた」という思いの丈が記されており、編集者と漫画家の関係を考え直させるために立ち上がったことが窺い知れる。なお、この裁判は和解金の支払いが認められたことで、雷句側が“実質勝利”の和解という形となった。

ちなみに原稿の紛失が発覚した際には、当時の担当編集者や編集長、副編集長から謝罪を受けたそう。しかしその際にも、「いるじゃないですか…一回もうサンデーでは描かないといってまた戻って描く人が」というような発言を受けていたという。

とはいえ、今回紹介したのはあくまで過去に起きた出来事。現在の「サンデー」は編集部の大改革が行われ、新人育成に力を入れる方針を打ち出しており、実際に優秀な作家たちが次々と頭角を現している。

過去に何があったのかはともかく、今の編集部は黄金期をふたたび実現するためにがんばっているはずだ。

文=野木

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