人気漫画『はじめの一歩』の作者である森川ジョージの発言をめぐり、X上で論争が巻き起こっている。一時は有名アニメーターたちが猛反発する事態となっており、アニメ業界の抱える問題点があらためて注目を浴びることとなった。
森川ジョージの怒りの矛先は…
発端となったのは、森川がとある海外ファンから見せてもらったというカラー色紙の存在だった。そこには「はじめの一歩」のイラストが描かれていたようだが、森川自身の作画ではなく、アニメーターがサイン入りで執筆したものだったらしい。
この色紙を《有償で渡した可能性》もあるとして、《アンタも日本の絵描きならルールは守れよ》と痛烈な批判を行っている。
海外のファンの方から一歩のコレクション自慢の投稿が届きました。
とてもありがたく見ていましたが中央に鎮座するカラー色紙が自分の描いたものではない。
自身の名前がサインとして入っているので誰が描いたかは特定できます。
有償で渡した可能性もあり大変憤慨しています。…— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) October 18, 2023
どうやら森川としてはこのイラストを描いた人物に思い当たる節があり、その相手に向けて忠告を行った…というのが真相のようだ。しかし同投稿では個人名を出していなかったため、「『はじめの一歩』に関わったアニメーターが有償・無償問わず勝手にイラストを描くこと」自体を批判しているものとして、拡散されることとなった。
「権利的な考え方でいえば至極正論であり、もし本当に有償でイラストを売っていたのなら言語道断の問題行為でしょう。ですが業界の慣習として、無償のファンサービスとしてアニメーターが自分の関わった作品のイラストを描くことはよく行われています。
ここで難しいのは、そもそも今のアニメ業界ではオリジナルアニメの企画が通らず、ほとんどが原作付きの作品ということ。もし『原作付きの作品はアニメーターのものではない、ファンサービスしてはいけない』と厳密なルールができれば、アニメーターが胸を張って自分の代表作と誇れる作品はほぼなくなってしまうでしょうね。
そのため、無償のファンサービスとして描く程度なら“お目こぼし”されてきた背景があるのですが、今回はあらためて権利を問われることになってしまいました」(アニメ業界関係者)
アニメーターたちが猛反発
森川の発言に対して、『はじめの一歩 New Challenger』の原画に携わっていたこともある北尾勝などの有名アニメーターがX上で反発。また『呪術廻戦』1期の総作画監督などで知られる西位輝実は、この機会にアニメーターの権利を見直すべきだとして、具体的な提案を投稿していた。
「漫画とアニメは持ちつ持たれつの関係であるはずですが、アニメーターの仕事はきわめて薄給で、権利的にも弱い立場に置かれています。原作付き作品がヒットしても、アニメーター側の“うまみ”になることはあまりなく、あくまで原作者や出版社の利益が大きくなる仕組みとなっているのが現状。
それはどれだけ有名なアニメーターであっても同じで、原作付きよりもオリジナルアニメに参加したがる人が多い理由でもあります。
そうした構造を問題視する人々からは、今回話題になった版権の利用に関して、アニメーターの権利を考え直してほしいという意見が多く上がっていました。具体的には、アニメーターが気軽に利用申請できる窓口の用意など、権利者の側から歩み寄りを行ってほしい…といった要望が上がっているようですね」(同)
ただでさえアニメーターが夢のない仕事とわかりつつある現在、将来のアニメ業界が崩壊することを防ぐためには、そうした施策も必要なのかもしれない。
他方で今回の騒動については、森川自身がアニメ業界関係者に対して誤解を招いたことを釈明。Xのスペースで経緯の説明を行ったほか、《関係者の方々を萎縮させてしまったとしたら申し訳ない。自分はアニメ大好きで制作スタッフの技術を尊敬しています》といった投稿を行った。
「とても攻撃性が高く、アニメ業界を攻撃する言葉に受け取れてしまいました」と、とあるアニメ関係者の方からご指摘がありました。
違います。
関係者の方々を萎縮させてしまったとしたら申し訳ない。
自分はアニメ大好きで制作スタッフの技術を尊敬しています。…— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) October 18, 2023
これを受けて、北尾を始めとしたアニメーターたちも理解を示し、騒動は沈静化に向かいつつあるようだ。
同じコンテンツの制作に携わる者として、アニメ業界と漫画業界がお互い手を取り合える未来がくるといいのだが…。
文=「まいじつエンタ」編集部
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