
『鬼滅の刃』1巻(吾峠呼世晴/集英社)
最近ネット上で、「逆張りオタク」と呼ばれる人々が存在感を増していることをご存知だろうか? 現在大ヒット中のコンテンツ『鬼滅の刃』に関しても、さまざまな〝逆張り〟評価が飛び交っているという…。
元々「逆張り」は投資界隈の用語で、相場の流れに逆らって売り・買いを行うことを指していた。しかし、サブカルチャー界隈で使われる場合は、人気コンテンツを〝あえて見ない〟、もしくは〝あえて批判する〟という態度を意味している。
典型的な例を1つ挙げてみよう。12月13日に放送されたラジオ番組『BAY STORM』(bayfm)では、『嵐』の二宮和也が「鬼滅の刃」について言及。二宮は『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった1回目から同作を読んでおり、その遍歴を見守ってきたという。しかしTVアニメ化によって注目を浴びたことで、「逆に嫌い」になってしまったそう。作品を愛していた分、寂しさが募っているようで、「みんなの炭治郎になってしまった、っていうことですよね」と心中を語っていた。
二宮と同じように、「鬼滅の刃」ブームからあえて距離をとっているという人は多い。SNSなどでは《逆張りクソオタクなので未だに鬼滅の刃欠片も知らん。誰が主人公かもわからん》《鬼滅の刃は「もうオワコンじゃね?」と囁かれるようになってから読みたい。逆張りオタクなので》《逆張りオタクなので鬼滅の刃そんなに面白いか?ってなる》《逆に鬼滅の刃を観たらもう終わりだと思ってます》といった声が上がっている。
絶対に負けられない戦い──「鬼滅の刃」無限逆張り編
「鬼滅の刃」が自分の趣味に合わないのであれば、見なければいいだけ──。そんな風に思ってしまいがちだが、実際には多くの人が「観ない理由」や「嫌いな理由」を積極的に語りたがっている。
他人が好きなものを否定したところで、メリットは存在しないはず。空気を読めない人間と思われてしまうリスクすらある。それにも関わらず、人々が逆張りを行うのは、「流行りものに乗ったと思われたくない」という動機からだ。メディアなどで大々的に取り上げられている作品を褒めると、〝浅い趣味〟と思われてしまう…という心理がそこには働いている。逆に言うと、逆張りすることで独自のセンスを持っているとアピールしたいのだろう。
とはいえ、逆張りは世間の評判の裏をかくもの。つねに他人の評価を物差しとして必要とするため、簡単に価値観が揺らいでしまう。「鬼滅の刃」に関していえば、すでに〝逆張りの逆張り〟といった地獄の無限連鎖が生じているようだ。
サブカルファンは「鬼滅の刃」の大ヒットに対して、斜に構えた態度をとっており、むしろ逆張りするのが当たり前。逆にそんな態度を避けようとする人は多く、《鬼滅に逆張りするのが流行ってるから、逆張りの逆張りで鬼滅のオタクになってる》《逆張りオタクの逆張りをしているので、普通に鬼滅の刃を見てウキウキしていました》《Twitterって逆張りしてる人間しかいないし、順張りこそ真の逆張りなのでは? 鬼滅の刃最高!》といった声が溢れかえっている。
揺るぎない価値観を持ち、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと主張するのは意外と難しい。作品の評価基準を他人に握らせるな!という声も聞こえてくるが、正論に従いたくなくなるのも人間の心理なのだ。
文=大上賢一
写真=まいじつエンタ