庵野秀明が『鬼滅の刃』ディス!?“わかりやすい作品”は本当に正しいのか?

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3月22日放送の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)では、『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめとする名作を手掛けてきた監督・庵野秀明に密着。番組の中で庵野が放った〝とある発言〟がきっかけで、ネット上で激しい議論が巻き起こっている。

注目を集めているのは、番組スタッフと庵野が居酒屋で語り合うシーン。スタッフが「何でドキュメンタリーの取材を受けようと?」と質問をすると、庵野が心境を明かしていく。

庵野は「商売しようと思って」と前置きをすると、「謎に包まれたままだと置いてかれちゃう」「面白いですよっていうのをある程度出さないと、うまくいかないんだろうなって時代かなって」とコメント。そして同時代の傾向について、「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなってきてる」と鋭く分析するのだった。

この発言に、ネット上からは《めちゃくちゃ同意してしまった。エヴァはそういうものとして定着してるから、世界観の説明不足込みで歓迎されて受け入れられたけど、一般的にはもう「解らないもの=面白くないもの」として切り捨てられる時代が来てる》《ツイッターでは考察文化が健在だけど、普通の人は解らないものをいちいち考えたりしないし、読み解こうとしないし、寄り添おうとしない》《最近は視聴者の理解力の低下も原因かなぁと思ってます》と同意の声が続出していた。

その一方で、《そもそも旧エヴァが「謎に包まれたものが喜ばれてた」って前提から怪しんだ方がよくて、「最後には謎が明かされるだろうという期待感でついていってた」のほうが実相に近い人もけっこう多かったんじゃない?》《「誕生日しかゲーム買ってもらえなかったからクソゲーでも頑張って攻略した」みたいな話ではないの?》などと、異議を唱える声も見受けられた。

「大衆ウケする」のヒット作が溢れかえる現代の環境

ネット上では「エヴァンゲリオン」のような分かりにくい作品の対極として、『鬼滅の刃』の名前を挙げる人も。同作は正義と悪がそれぞれ剣士、鬼という形で分かれており、登場人物のセリフも説明的、良くも悪くも〝わかりやすい〟作品だった。そのため、多く人がアクセスしやすく、テレビアニメ化によって社会現象クラスの大ヒット作となったのは、ご存知の通りだ。

また、アニメ作品に限ったことではなく、ドラマ作品などでも同じことが言える。たとえば、動画配信サービス『Netflix』で連日のように国内ランキング1位を獲得している韓国のラブロマンスドラマ『愛の不時着』もその典型。ヒロインが敵対する国家の男性に救出され、恋愛感情を抱くようになる…というストーリーに加え、登場人物の気持ちや思考がわかりやすく描写されている。

その他、小説においてもタイトルを見るだけで中身が分かるような〝なろう系〟が流行中。こうした傾向をみるに、たしかに人々はわかりやすい作品を好んでいるようだ。時代と関係なく「娯楽に頭を使いたくない」という層が一定数いるのも事実だろうが、ヒット作の傾向という意味ではかなり偏りが激しくなっている。ただ優れた作品は、普段アニメや漫画、ドラマに触れていない人でも観やすいように作られているもの。言葉が悪いかもしれないが、〝バカでもわかるが、バカ向けの作品ではない〟ということが共通しているだろう。

2012年に庵野が手掛けた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』も、謎めいた展開によって《意味不明すぎる》と一部で叩かれていた。しかし、すべての物事は白か黒か、YESかNOか、わかやすいかわかりにくかで判断できるものではない。一度生み出された作品は、作家の手を離れて受け手へ託される。〝公式〟による解釈や説明がすべて正しいと断定される昨今の風潮では、クリエイションのレベルを低く設定せざるを得ないのだろう。

これからは「エヴァンゲリオン」のような謎に包まれた作品は消え、状況を逐一説明してくれるわかりやすい作品が主流になっていくのかもしれない…。それが正しいのか、間違っているのかは断言できないところだ。

文=大上賢一

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