藤本タツキ“新作読切”1日で300万PV! 同業者が嫉妬する衝撃作が伝えたメッセージ

藤本タツキ“新作読切”1日で300万PV! 同業者が嫉妬する衝撃作が伝えたメッセージ

『チェンソーマン』11巻(藤本タツキ/集英社)

アニメ化も決定した漫画『チェンソーマン』の作者・藤本タツキが、7月19日に『ジャンプ+』にて新作読み切りを発表。『ルックバック』と題されたその作品は口コミによってたちまち人気が広まり、公開から約1日で300万PVに到達するほどの勢いを見せている。

同作は「時代を抉る 新時代青春読切」と銘打たれており、読切ながらも143ページに及ぶ大長編。物語は、学級新聞で4コマ漫画を連載する小学4年生・藤野が挫折を味わうところから始まる。藤野は圧倒的な画力を持つ引きこもりの同級生・京本と出会い、クリエイターとしての成長や葛藤を経験していく。

読切ということで準備期間が十分に確保できたのか、画面は「チェンソーマン」よりも入念に書き込まれている印象。巧みな構図によって表現される人間の心理や、予想もつかないストーリー展開も見どころで、多くの読者が心を揺さぶられている。

同業者からも絶賛が相次いでおり、ツイッター上では『おやすみプンプン』などを手掛けた浅野いにおが《すごい。本当にすごい。すごいものを読ませていただきました。(語彙消失)》とコメント。また、『代紋TAKE2』の渡辺潤は《気軽にノーガードで読んでしまい一瞬、漫画家辞めようと思ってしまった》《いるのよ…天才って》と賛辞を送っている。他にも『それでも町は廻っている』の石黒正数や『ろくでなしBLUES』の森田まさのり、『ブラック・ラグーン』の広江礼威など、同作に言及している漫画家は数えきれない。

さらに漫画をめぐる物語でありつつも、クリエイター全般に刺さる物語だったようだ。アーティストの村上隆や奈良美智、哲学者の東浩紀、詩人・小説家の最果タヒなど、さまざまなジャンルで称賛の声があがっている。

テクニックだけではない作品の情念

あらゆるページで卓越した漫画テクニックが用いられているが、もちろんそれだけで人が感動するわけではない。同作が衝撃を与えたのは、どこか迫力すら感じさせる「テーマとの向き合い方」だった。

直接的には言及されていないものの、同作は2019年7月18日に発生した「京都アニメーション放火殺人事件」を連想させる内容となっている。作品の公開日が7月19日だったことから、おそらくは意識的にこの事件と向き合うことを目指した作品だったのだろう。

多くの犠牲者を出した事件をめぐり、誰もがその凄惨すぎる有り様を前にして口を閉ざしてきた。それから約2年を経て、今一度「いかにして事件と向き合うのか」と、クリエイターの視点からどこまでも真摯に掘り下げることが藤本の意志だったのではないだろうか。

この点に関して、『ちはやふる』作者の末次由紀は《素晴らしかった。全ページ横たわるのは執念》《ノンフィクションはいつも私たちを殴ってくるけど、フィクションに繰り返し繰り返し救われる。描いていかなきゃ》と言及。作品を通して強いメッセージを受け取ったことを明かしていた。

またこのテーマと向き合うにあたって、作者はいくつかの先行作品を参照している。とくに重要だと思われるのが、イギリス・マンチェスター出身のロックバンド・Oasisの代表曲『Don’t Look Back in Anger』だ。

マンチェスターでは2017年5月22日に自爆テロ事件が発生し、数多くの命が奪われた。数日後、追悼のために集まった人々が「Don’t Look Back in Anger」を合唱したことから、この曲はテロに対抗するカルチャーとして世界中に広まっている。

その一方、「ルックバック」の背景をよく見ると、「Don’t Look Back in Anger」を示唆するメッセージが隠された部分が。和訳すれば「怒りとともに過去を振り返るな」という意味になるが、同作のストーリーを踏まえるとそのメッセージはさらに深く響きわたるはずだ。

他にもクエンティン・タランティーノの映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のオマージュなどもあり、ジャンルを超えた引用の織物として作品が作られている。同作は日本と同時にアメリカでも翻訳版が公開され、大きな話題を呼んでいるというが、そうして普遍性を獲得すること自体がカルチャーの力と信じざるを得ない。

なぜフィクションが世界に必要なのか。ぜひ同作を読んで、その問いと向き合ってみてほしい。

文=野木
写真=まいじつエンタ
■『チェンソーマン』11巻(藤本タツキ/集英社)

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